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【随時更新】小説中毒が厳選した最高に面白い小説1~100冊目
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【2023年版】小説中毒が厳選した最高に面白い小説(1~100冊目)

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面白い小説を読ませたい

 

どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。

学生時代からロクな友達もおらず、社会人になってからもそれは変わらずで、人としゃべる時間があったらひたすら読書に明け暮れていた生活を送っている。

そんな私がこの世に数ある小説の中から「これは超面白い!」とテンションが上がってしまった最強小説を紹介しよう。

小説というものはその性質上、長い時間をかけて最後まで付き合ってあげないと面白いかどうかが分からない。つまらない小説に出会ったせいで今までどれだけのムダな時間を過ごしたことか…。

しかし皆様には私が経験したような人生の無駄遣いはしてもらいたくない。ぜひとも私を踏み台に使っていただきたい。

そして「もっとこの珠玉の作品たちを世に知らしめたい!」、そんな想いでこの記事を仕上げた次第である。


では、最高の読書体験を。

 

※この記事の第二弾がこちら

www.orehero.net

 


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1 お前の罪を自白しろ 著:真保裕一

 

衆議院議員の宇田清治郎は、総理がらみの疑惑を糾弾されていた。その最中、三歳になる孫娘が誘拐された。犯人の要求は、罪の自白!タイムリミットは、翌日の午後五時。犯人の動機は宇田家への怨恨か。総理の罪を暴くことにあるのか。保身のための駆け引きを模索する官邸サイドと戦う宇田一族。幼き少女を救うための「家族の戦い」が始まる!

 

…あらすじだけで美味しいのが分かる。ちゃんと中身も期待に応えてくれるレベルだから安心してほしい。真保裕一は濃厚なのを書かせたら東西一だ。


この作品の最大の見所は、政治家連中の間で行われる、手練手管極まる心理戦だろう。

一筋縄ではいかない物の怪たちの攻防は、まるでその場にいるかのような臨場感。壮絶なやり取りを、歯ぎしりしながら読み進めてもらいたい。

結末は若干軽めだけれど、読んでいる最中の熱中具合はこの記事の中でも屈指。

いやー、凄え。

 

2 黄砂の籠城 著:松岡圭祐

一九〇〇年春、砂塵舞う北京では外国人排斥を叫ぶ武装集団・義和団が勢力を増していた。暴徒化して教会を焼き討ち、外国公使館区域を包囲する義和団。足並み揃わぬ列強十一ヵ国を先導したのは、新任の駐在武官・柴五郎率いる日本だった。日本人の叡智と勇気を初めて世界が認めた、壮絶な闘いが今よみがえる。

 

あまりの迫力に、読みながら思わず息を止めてしまったほど。

 

実際にあった「義和団事件」をベースに描かれているのだが、史実なんてどうでもいいぐらいに最強のエンタメ小説である。

暴徒に周囲を囲まれ、徐々に緊張感が高まっていく様子。行き詰まるような空気感。そして開戦と同時に生まれる数々の死闘とドラマ。これで燃えない人はいないでしょ。上下巻の長さをまったく感じさせないほどのグイグイ引き込んでくるし、それでいて読み終わったあとの満足感は最高レベルである。

 

元防衛大臣の石破茂氏が大絶賛するだけあり、若干日本讃美がすぎる部分はあるが、それを補って余りあるぐらいの名作だと思う。出会えて良かった。

 

3 マリアビートル 著:伊坂幸太郎

幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。

小説は、ついにここまでやってきた。映画やマンガ、あらゆるジャンルのエンターテイメントを追い抜く、娯楽小説の到達点! 

 

超高打率作家伊坂幸太郎が放つ、最高の“殺し屋小説”。なんと登場人物の9割以上が殺し屋、という訳の分からない設定で、しかもそれが東北新幹線の中に閉じ込められるのだから、面白いことが起こるのは間違いないだろう。

新幹線のスピード感に負けないレベルで展開される“伊坂エンタメ”を存分に食らいなされ。

 

個別紹介記事⇒物語におけるリアリティの重要性。伊坂幸太郎『マリアビートル』

 

 

こちらは一応シリーズものになっているのだが、内容に繋がりはほとんどないので、読む順番などは気にしなくてもOK。

 

シリーズ1作目がこちら。大人気。

 

3作目がこちら。殺し屋シリーズで唯一の短編集である。もちろん面白い。

 

4 百年法 著:山田正紀

 

 

不老不死が実現した日本。しかし、法律により百年後に死ななければならない――西暦2048年。百年の生と引き替えに、不老処置を受けた人々の100年目の死の強制が目前に迫っていた。その時人々の選択は――!?

 

作家とは、妄想を現実に召喚する生業である。

という言葉は私が考えたわけだが、それを地で行く作品がこれ。「不老不死が実現した社会で、強制的に100年後に死なされる」って話なんだけど、悪いけどこれ、まるで小学生が思いついたような設定じゃない?

でもそれを、超絶のエンタメ&味わい深い物語まで昇華させちまってんだから、山田宗樹は小説巧者すぎる。

ギュンギュン進んでいく物語にヤラれたい方には、超オススメの一冊。

ちなみに私は『百年法』をブログの読者の方に「絶対に気に入るから」って教えてもらったんだけど、大当たりでした。エンタメ超大作、大好きです。そして私の性癖を把握してくれてありがとうございます。

 

 

5 傍聞き 著:長岡弘樹

 

 

患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫る「迷走」。娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心揺さぶられる「傍聞き」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。まったく予想のつかない展開と、人間ドラマが見事に融合した4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞。


短編には長編よりもさらに作家に才能が求められる。限られた文字数の中でどれだけ読者に物語を伝え、そして翻弄するのか。

この作者、なかなかの手練である。

そしてその冴え渡る技がこの一冊に凝縮している。

私たちは長岡弘樹が用意した迷路の中をひたすら進むだけでいいのだ。それだけで見たこともないような場所へ連れてってくれるから。


6 4TEEN 著:石田衣良

 

 

銀座から地下鉄で10分、木造の長屋ともんじゃ焼きとスカイラインを切り取る超高層マンションが調和して共存する町・月島。この町で僕たちは恋をし、傷つき、死と出会い、いたわり合い、そして大人になっていく…。14歳の中学生4人組が1年間に出会った8つの瑞々しい物語。


思春期の少年たちが主人公なので、大人の私たちは「青春あるある」をこういった作品に求めがちだが、きっとその期待は裏切られるだろう。

設定があまりにも特異で、現実の私たちが過ごしたような青春とは、とても似ても似つかないような物語が展開される。

しかしながら、この作品の中で展開される少年たちの感情の動きはまさしく青春そのもの!キラキラと澄んだ水が光を反射するかのように、私たちの心を穏やかにしてくれる。

腐った心を浄化してくれる清涼飲料水的な小説である。


個別紹介記事⇒こんな青春があってもいい。石田衣良『4TEEN』



7 あと少し、もう少し 著:瀬尾まいこ

 

陸上部の名物顧問が異動となり、代わりにやってきたのは頼りない美術教師。部長の桝井は、中学最後の駅伝大会に向けてメンバーを募り練習をはじめるが…。元いじめられっ子の設楽、不良の大田、頼みを断れないジロー、プライドの高い渡部、後輩の俊介。寄せ集めの6人は県大会出場を目指して、襷をつなぐ。

あと少し、もう少し、みんなと走りたい。涙が止まらない、傑作青春小説。 

 

青春モノをもういっちょ。

中学生×駅伝とか、絶対に外れるワケがない。青春小説に求めるものが、全部入ってる感じ。超好き。

それだけでも十分な作品なのだが、もうひとつ作者の挑戦というか、面白い試みがなされている。連作集なのだが、駅伝になぞらえて一人ひとり主人公が入れ替わっていくのだ。

この試みによって他の駅伝小説にはない、独特の読み味が生まれている。これはあまり見れないパターン。

 

個別紹介記事⇒浄化されること間違いなし。瀬尾まいこ『あと少し、もう少し』

 

8 悪意 著:東野圭吾

 

 

人気作家が仕事場で絞殺された。第一発見者はその妻と昔からの友人。逮捕された犯人が決して語らない動機にはたして「悪意」は存在するのか。


人気作家東野圭吾が作家として最高に脂が乗っていた時期の著作。

この時期の作品はどれもこれも異常なクオリティを有していて、本気で「中に何人いるんだよ!」と言いたくなるほどだった。今は…うん、頑張ってるよね…。

 

『悪意』は作中作を中核に犯人の動機をひたすらに煮詰めた作品になっている。

犯罪小説の中でも、犯人の動機だけでこれほどの面白さを生み出している作品は、私の知る限りでは存在しない。

作品に振り回されて最高にエキサイトすることだろう。


9 陽気なギャングが地球を回す 著:伊坂幸太郎

 

 

嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった…はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ!奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。映画化で話題のハイテンポな都会派サスペンス。


これはねえ、読書の面白さを素直に感じさせてくれる良作。
伊坂幸太郎作品どれにも言えることだけど、まず引用が素晴らしい。全然興味ないのに、ジャン=リュック・ゴダールに影響を受けたような気になってしまう。高尚な趣味を持ち合わせているような気分になってしまう。

そして緻密に練り上げられた物語の構成と、思わずニヤリとしてしまう登場人物たちの会話。

最初から最後までずーっと面白い。伊坂作品を手に取ったことがない方はまずこちらからどうぞ。

 

個別紹介記事⇒面白い小説が読みたい?では「陽気なギャングが地球を回す」を読みましょう


著者としては珍しく直接的なシリーズになっている。続編も変わらないクオリティなので読んで損なし。というか、一作目を読んだら続編を読まずにはいられない面白さである。

大概のシリーズ物ってのは回を重ねるごとにクオリティが下がるものだが、そこはやはりさすがの伊坂。毎回最高レベルに面白い。

伊坂本人もこのシリーズに関しては「ひたすら読者が面白いと思えるように」書いているそうなので、私たちも安心して彼の手の平で踊り狂うことができるってもんです。

 

 

10 カラフル 著:森絵都

 

 

生前の罪により、輪廻のサイクルから外されたぼくの魂。だが天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになるのだが…。不朽の名作ついに登場。


こちらは児童文学作品である。

いや、ちょっと待ってほしい。読み飛ばさないでくれ。

児童文学というだけで「幼稚そうだな…」と決めつけていないだろうか?もしそんな風に考えて児童文学を避けているようであれば、かなりの機会損失だ。感動の機会損失。これを投資に例えるなら、Amazonが上場したての頃の株が目の前にあるのにスルーしちゃうぐらいの機会損失。私は皆さんに、絶対にそんな愚かなことはさせたくない。

児童文学というぐらいなので子供が読むものなのは確かだが、結局書いているのは大人の作家である。しかもこの『カラフル』は直木賞を取った森絵都による著作である。大人の心だって余裕で鷲掴みにしてくれるから安心してほしい。

ちなみに『カラフル』は映画化もされている。やはり名作はクリエイターが放っておかないという好例。

 

個別紹介記事⇒『カラフル』は森絵都の最高傑作だし、大人が読むと浄化されちゃう本



11 クリムゾンの迷宮 著:貴志祐介

 

火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された。死を賭した戦慄のゼロサムゲーム。一方的に送られてくるメッセージ。生き抜くためにどのアイテムを選ぶのか。自らの選択が明日の運命を決める―!


最初の『新世界より』でも書いた通り、貴志祐介作品にハズレはほとんどない。こちら『クリムゾンの迷宮』も大当たりのひとつである。実は日本のデスゲーム小説のパイオニア的作品だったりする。なのに発売当時はそこまで話題にならなかった。

というのも『バトル・ロワイアル』が発売されたのが同時期なのである。話題性で言ってしまえば、そりゃ『バトルロワイアル』に軍配が上がってしまうのは誰もが認める所だろう。せっかくの名作だが、こればっかりは運が悪かったとしか言いようがない。

デスゲームの醍醐味である頭脳戦もキッチリ描かれているので、これ系が好きな人には堪らない作品である。



個別紹介記事⇒面白い本が読みたい?では貴志祐介の『クリムゾンの迷宮』を読みましょう。

 

12 バトル・ロワイアル 著:高見広春

 

 

西暦一九九七年、東洋の全体主義国家、大東亜共和国。城岩中学三年B組の七原秋也ら四十二人は、修学旅行バスごと無人の島へと拉致され、政府主催の殺人実験を強制される。生還できるのはたった一人。そのためにはただクラスメイト全員を殺害するのみ―。現代日本を震撼させたジェットコースターデスゲーム・ノヴェル、ついに文庫化。


ということでこちらも紹介しておこう。デスゲーム小説の金字塔、『バトル・ロワイアル』である。小説好きで読んでいない方はいない…はず。

中学生同士が殺し合うというショッキングな内容だが、くだらない倫理観など捨て去ってフィクションの世界を楽しむのが一番。同じ背徳感なら快感にしてしまうのが、本当の本読みってもんよ。

私が『バトル・ロワイアル』を読んだのは中学生のとき。休みの日に朝から読み始めてたのだが、面白いすぎて日が暮れていることに気付かなかった思い出がある。暗くなった部屋で、必死に目を凝らして文字を追っていた。

思えばあれば一番最初の読書体験だったかも。


13 ハードボイルドエッグ 著:荻原浩

 

 

中学の頃にフィリップ・マーロウのようなクールな探偵になることを心に決め、とうとう脱サラして事務所を開いた私。だが、来る依頼は動物の捜索ばかり。おまけにとんでもない婆さんを秘書に雇うはめになり…。


孤高の探偵フィリップ・マーロウをご存知だろうか?知っていれば楽しめるし、知らなくても最高に楽しめる。私はこの『ハードボイルド・エッグ』を読んでからチャンドラーに手を出したクチである。

クールでシリアスな探偵になりたい主人公の最上(もがみ)だが、彼の周りで起こるのは珍騒動ばかり。実力が伴わない彼は滑稽なまでに振り回され続ける一方。それでもクールさを装い続けようとする内面とのギャップが笑いを誘う。

バカだけど愛すべき主人公と人間ドラマで織り上げられた名作である。

読後の爽やかさが最高。

個別紹介記事⇒『ハードボイルド・エッグ』には荻原浩の魅力が詰まっている


 

続編はこちら。遜色ない出来かと。

 

14 最悪 著:奥田英朗

 

 

不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢や、取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。無縁だった三人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。比類なき犯罪小説、待望の文庫化。


この作者は熱量が高い作品を得意としている一方で、直木賞を獲得した『空中ブランコ』のようにコメディータッチの作品でも力を発揮できる稀有な作家である。

私はどちらの奥田英朗も好きなのだが、作品に没頭できる度合だとこちらの『最悪』のような長編作品の方を推したい。彼の作家としての魅力が余すところなく発揮されていると思う。

主人公を複数人用意することで、物語の山場をいくつも作り上げる手法をとった作品を群像劇なんて呼ぶ。下手くそな作家がやると興醒めになるし、巧みな作家がやれば最高のエンターテイメント作品になる。『最悪』はもちろん後者である。

題は『最悪』、しかし中身は“最高”。



個別紹介記事⇒最悪という名の最高の読書体験を喰らえ。奥田英朗『最悪』

 

 

15 フェルマーの最終定理 著:サイモン・シン

 

 

17世紀、ひとりの数学者が謎に満ちた言葉を残した。「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」以後、あまりにも有名になったこの数学界最大の超難問「フェルマーの最終定理」への挑戦が始まったが―。天才数学者ワイルズの完全証明に至る波乱のドラマを軸に、3世紀に及ぶ数学者たちの苦闘を描く、感動の数学ノンフィクション。


名前を見て食わず嫌いしないで貰いたい。『フェルマーの最終定理』は面白い小説を探している人は避けて通れないものである。

大丈夫だ、安心してほしい。もしあなたが数学を嫌いだとしても、苦手だとしても、本書の中で繰り広げられる数学者たちの何百年にも及ぶ苦悩に満ちたドラマは、必ずあなたの胸を打つはずだ。


碁のルールが分からなくても『ヒカルの碁』が楽しめるように、将棋に興味がなくても羽生善治が好きになるように、この真実の物語の虜になれるはずである。文句なしの傑作だ。

私も正直、中に書いてある数学の内容はほとんど理解できなかったが、それでも最高に楽しむことができたし、ラストに向けてこみ上げてくる高揚感は抑えられなかった。

余談だが、この本を高校のあるクラスに読ませたところ急に数学の成績が上がったという逸話がある。こんな物語に触れたら、そりゃ感化されるわ。


個別紹介記事⇒数学に感動させられる。傑作『フェルマーの最終定理』を紹介する




16 殺戮に至る病 著:我孫子武丸

 

 

永遠の愛をつかみたいと男は願った――東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔! くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。


売れなくなるのを承知で正直に言おう。この作品、めちゃめちゃグロい。苦手な人はあまりオススメしない。

万人受けする作品ではないことは私も重々承知である。だが、それでもこの作品をぜひオススメしたい!

我孫子武丸という作家は登場人物に憑依するのが非常に上手いのだが、この作品でもその才能を爆発させている。もうね、読書中の私は完全にサイコ・キラー。殺人鬼そのもの。そう錯覚させるぐらい丁寧にサイコ・キラーの心理描写が書き込まれている。

え?サイコ・キラーの心理なんか興味ないって?いえいえ…この作品の肝はそこじゃない…。

じゃあそれが何かというと、読んで貰わないと教えられないのである。

個別紹介記事⇒エログロもここまで来ればむしろ爽快。我孫子武丸『殺戮に至る病』



17 掏摸 著:中村文則

 

 

東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは…。大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳されたベストセラーが文庫化。


紹介文にもある通り、作中に出てくる「最悪」な男、木崎がすんばらしく魅力的。そう、最悪なやつなのに最高なのだ。なんかさっきから同じような紹介の仕方ばっかりしてるな…。

「最悪」である木崎だが、こいつが作中で出てくるたびに胸の内から溢れ出てくる。ワクワクが。自分では止められないのだ。

これはもう仕方ないだろう。ヤクザだろうがヤク中だろうが殺人鬼だろうが、魅力的ながキャラクターこそが至高である。

そして、この作者である中村文則の最大の功績は、木崎という最高に魅力的な悪魔を創造したことだ。

個別紹介記事⇒中村文則の最大の功績を見よ。『掏摸(スリ)』

 

18 魔術師(イリュージョニスト) 著:ジェフリー・ディーヴァー

 

 

ニューヨークの音楽学校で殺人事件が発生、犯人は人質を取ってホールに立てこもる。警官隊が出入り口を封鎖するなか、ホールから銃声が。しかし、ドアを破って踏み込むと、犯人も人質も消えていた…。ライムとサックスは、犯人にマジックの修業経験があることを察知して、イリュージョニスト見習いの女性に協力を要請する。


アメリカが生んだ稀代のストーリーテラー、ジェフリー・ディーヴァー。

この人の著作はどれもこれもジェットコースターのような作品ばかり。脳みそを空っぽにして夢中になれるはずだ。

そんな彼の著作の中でもこちらのリンカーン・ライムシリーズは、著者の代名詞的存在。一度読み始めたら止めることは不可能。次々と襲いかかるどんでん返しに、ぐらんぐらんにされるがよい。心してかかれ。


19 ガダラの豚 著:中島らも

 

 

アフリカにおける呪術医の研究でみごとな業績を示す民族学学者・大生部多一郎はテレビの人気タレント教授。彼の著書「呪術パワー・念で殺す」は超能力ブームにのってベストセラーになった。8年前に調査地の東アフリカで長女の志織が気球から落ちて死んで以来、大生部はアル中に。妻の逸美は神経を病み、奇跡が売りの新興宗教にのめり込む。大生部は奇術師のミラクルと共に逸美の奪還を企てるが…。超能力・占い・宗教。現代の闇を抉る物語。まじりけなしの大エンターテイメント。日本推理作家協会賞受賞作。


上の紹介文にはまじりけなしの大エンターテイメントと書いてあるが、私の意見は真反対。むしろ、まじりものだらけのエンタメごった煮のような作品が『ガダラの豚』である。

中島らもがお得意とする笑いをベースに、あらゆる要素を混ぜ込みながら繰り広げられるカオスな物語は、読み終わった後に疲労感を感じるほど。

私が紹介する本はどれもこれも唯一無二なものばかりだが、『ガダラの豚』ほどオリジナリティ溢れる作品はない。

個別紹介記事⇒混じり気だけで出来たエンタメの傑作小説。中島らも『ガダラの豚』




20 ある閉ざされた雪の山荘で 著:東野圭吾

 

 

早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した若き男女七名。これから舞台稽古が始まるのだ。豪雪に襲われ孤立した山荘での殺人劇である。だが一人また一人、現実に仲間が消えていくにつれ、彼らの中に疑惑が生じる。果してこれは本当に芝居なのか、と。一度限りの大技、読者を直撃。


あんまりね…、大トリックとか言ってほしくないのが正直な所。推理小説慣れしている人間からすれば、それだけでネタバレみたいなものだ。

ただこのタイトルを見る限り、東野圭吾は我々に対して「よくある雪の山荘ものです。心してかかってください」と挑戦している印象を受ける。

この作品は、東野圭吾が「推理小説の限界を模索」していた時期のものだけあって、かなり挑戦的である。

東野作品はほとんど読んでいるが、やはりこの時期の東野圭吾は本当に神がかっていたと思える。

 

推理小説好きもそうでない人にも背負投げを食らわせる傑作。

個別紹介記事⇒東野圭吾の限界突破。『ある閉ざされた雪の山荘で』




21 太陽の塔 著:森見登美彦

 

 

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。


バカな大学生を描かせたら日本一の作家、森見登美彦のデビュー作。

彼が今のように売れるはるか前に、私は書店でこの『太陽の塔』を手にした。

最初の数行読んだだけで、そのあまりの面白さに驚愕してしまい、今でも忘れられない思い出となっている。意味もなく本屋を徘徊するクセが付いたのは、確実に森見登美彦のせいである。

評判とか関係なしに本を衝動買いしたのは後にも先にもこれだけだったなぁ。

個別紹介記事⇒これ以上阿呆に溢れた冒頭文を知らない。『太陽の塔』森見登美彦




22 奪取 著:真保裕一

 

 

偽札をつくりあげた者が勝利者となる!傑作長編
1260万円。友人の雅人がヤクザの街金にはめられて作った借金を返すため、大胆な偽札作りを2人で実行しようとする道郎・22歳。パソコンや機械に詳しい彼ならではのアイデアで、大金入手まであと一歩と迫ったが…。日本推理作家協会賞と山本周五郎賞をW受賞した、涙と笑いの傑作長編サスペンス!


これは凄い!

読んでいる内に一緒に偽札作りをしたくなる欲求が抑えきれなくなるだろう。

タイトルの『奪取』は偽札によって大金を奪い取る“奪取”の意味合いもあれば、走り去る“DASH”とも掛けているのだろう。

確かにこの疾走感たるや、まさにDASHであり、ここまでスピード感のある犯罪小説もそうそうない。

超具体的に明かされる偽札造りの手法は、知識欲もガツンと満たしてくれるはず。



個別紹介記事⇒比類なき犯罪小説『奪取』の爽快感に酔いしれる

 




23 密室殺人ゲーム王手飛車取り 著:歌野晶午

 

 

“頭狂人”“044APD”“aXe(アクス)”“ザンギャ君”“伴道全教授”。奇妙なニックネームの5人が、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。ただし、ここで語られる殺人はすべて、出題者の手で実行ずみの現実に起きた殺人なのである…。リアル殺人ゲームの行き着く先は!?歌野本格の粋を心して堪能せよ。


日本ミステリー界の鬼才歌野晶午による、非常に企み深い作品。

この男が仕上げてきた小説がまともな作品であるはずがない。誰も見たことがないものしか作り上げないのが、歌野晶午である。

 

発売当時は「真似する人間が出てくるのでは」と危惧された問題作。

とくとご覧あれ。


個別紹介記事⇒鬼才が挑むミステリーの新たな可能性。歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』

 

続編はこちら。

 

24 青の炎 著:貴志祐介

 

 

櫛森秀一は、湘南の高校に通う十七歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭の一家団欒を踏みにじる闖入者が現れた。母が十年前、再婚しすぐに別れた男、曾根だった。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する。自らの手で曾根を葬り去ることを…。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感動の名作。


嵐の二宮和也主演で実写映画化されたこの作品。映画の方は見ていないので知らんが、原作は文句なしの傑作。

物語の中には頭の良い主人公がたびたび登場しますが、『青の炎』も同じである。

主人公の櫛森秀一は非常に頭のいい高校生。頭が良すぎると言ってもいいぐらい。

しかし彼はまだ17歳。頭の良さは、ときに感情に負けてしまうこともあり、それがまた切ないドラマを生み出すことに…。

子供でもなく大人でもない彼の孤独な戦いは、確実に胸を打つことだろう。

 

安定の貴志祐介クオリティで、徹夜必至の作品。

個別紹介記事⇒青さゆえの犯行が痛々しい。貴志祐介『青の炎』




25 アヒルと鴨のコインロッカー 著:伊坂幸太郎

 

 

引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!注目の気鋭が放つ清冽な傑作。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。


今では売れっ子中の売れっ子の伊坂幸太郎だが、キッカケは完全にこちらの『アヒルと鴨のコインロッカー』だろう。

インパクト抜群のつかみといい、テンポの良い物語運びといい、作中にたびたび出てくるボブ・ディランの引用といい、そして破壊力。伊坂幸太郎の良さが全部凝縮されたような作品である。

 

これを読めば一気に伊坂ファンになるはずである。



個別紹介記事⇒伊坂幸太郎がいかに優秀なセールスマンか理解できる『アヒルと鴨のコインロッカー』



 

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26 告白 著:湊かなえ

 

 


我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。第29回小説推理新人賞受賞。


湊かなえって性格悪いのかな…?そんなことを思わせるほどに主人公の女性教師が犯人を追い詰める様子が残酷。でもその残酷さがエンタメになっているんだから、人間ってやつは本当にどうしようもねえな。うん、私のことだ。

思うに、背徳感はエンタメに限らず、人間の脳みそをおかしくさせる要素として、社会や人生の色んな場面に影響を及ぼしている。

ということで、背徳感でおかしくなりながら、存分に楽しんでいただきたい。



個別紹介記事⇒『告白』湊かなえの性格の悪さが滲み出る極上のエンタメ作品!




27 秘密 著:東野圭吾

 

 

妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密”の生活が始まった。映画「秘密」の原作であり、98年度のベストミステリーとして話題をさらった長篇、ついに文庫化。


人格が入れ替わる、なんていうありきたりな設定も、作家自身がここまで真剣に向き合うと、こんなにも残酷で胸を打つ物語に昇華してしまうのだ。

いち小説好きとして、この仕事を成し遂げた東野圭吾に拍手を贈りたい。

 

以下にリンクを貼った個別紹介記事でも書いているのだが、『秘密』の肝となるアイデアの発想は、小説の神様が東野圭吾に微笑んだとしか思えないようなもの。って…ハードル上げすぎかな…?

 

読まなきゃ損な名作。



個別紹介記事⇒小説の神が微笑んだとしか思えない発想。 『秘密』東野圭吾

 

28 潔白 著:青木俊

 

 


30年前に小樽で発生した母娘惨殺事件。死刑がすでに執行済みにもかかわらず、被告の娘 が再審を請求した。娘の主張が認められれば、 国家は無実の人間を死刑台に追いやったことになる。司法の威信を賭けて再審潰しにかか る検察と、ただひとつの真実を証明しようと 奔走する娘と弁護団。「権力vs.個人」の攻防を迫真のリアリティで描く骨太ミステリ小説。

 

熱いねぇ、熱いのは大好きよ。熱量がある作品は、持っていかれるからさ、あっちの世界に、自我が。そりゃ自然と倒置法にもなるよね。こんだけ熱いのに触れちまったら。

父の無実を信じ、冤罪を晴らすため孤独な戦いを始める主人公と、司法の威信を背負い、全力で再審を潰しにかかる検察の痺れるような戦い。

勝つのは、国か、個人か。そして真実はどちらに。

圧倒的なリアリティと頭脳戦に息を呑む、最高の法廷ミステリー!!!



29 空中ブランコ 著:奥田英朗

 

 


伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?直木賞受賞、絶好調の大人気シリーズ第2弾。


こうやってまとめて紹介すると、自分がどのファンなのか思い知らされる。個人的には奥田英朗をそんなに好きになったつもりはなかったのだが、いざ作品を挙げてみると奥田作品だらけになってしまった。

 

こちらの『空中ブランコ』は精神科医伊良部シリーズの2作目。

ドラマ化も映画化も舞台化もされていて、これだけメディアミックスされているというのはそのクオリティが認められているからこそ。きっと予算があまりかからなそうな設定も良かったのだろう。

1作目の『イン・ザ・プール』も遜色ない面白さなのでぜひ。

ただし、3作目の『町長選挙』はびっくりするぐらい面白くないので、スルー推奨。


個別紹介記事⇒バカが核心を突く快感。奥田英朗『空中ブランコ』



 

30 失はれる物語 著:乙一 

 

 

目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見立て、日日の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが…。表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし最新作「ウソカノ」の2作を初収録。


”切なさの名手”乙一本領発揮の作品。乙一の傑作短編ばかりが集まったベストアルバム的な作品である。

非常に苦しい物語が多いのだが、そんな苦しみも、乙一の淡白で柔らかい文章によってパッケージングされると、途端に心地よくなってしまうのだから不思議なものである。いやー、やっぱ天才だわ。

乙一お得意の“あれ”は読んでいる最中に「上手い!」と声を出してしまうほど。


個別紹介記事⇒悲しみは美しい。乙一『失はれる物語』


31 噂 著:荻原浩

 

 

「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。


あの荻原浩がミステリー?!と懐疑的だったが、これが大当たり!この男はこんな上質なミステリーまで書けてしまうのか。

いつもはコメディタッチで読者をクスッとさせ、ときには泣かせたりする荻原浩だが、こちらの『噂』は恐怖と謎で読者を翻弄する。試しにいつもとは違うのを書いてみました的な、安っぽい作品ではない。巧みな人物描写とストーリーテリングで瞬く間に衝撃のラストまで運ばれる。

読むべし!

個別紹介記事⇒ミステリーの醍醐味はここにある。荻原浩『噂』




32 犯人に告ぐ 著:雫井脩介

 

 

闇に身を潜め続ける犯人。川崎市で起きた連続児童殺害事件の捜査は行き詰まりを見せ、ついに神奈川県警は現役捜査官をテレビニュースに出演させるという荒技に踏み切る。白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた巻島史彦警視だった―史上初の劇場型捜査が幕を開ける。第7回大藪春彦賞を受賞し、「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝くなど、2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作。


まさに時代を席巻した作品である。元々いい作品を多数発表していた雫井脩介だが、「もう一歩…!」という感じが抜けきらなかったのも事実。「読みやすいのはいいのだけど、何か足りない…」そんな作家だった。

だがこの『犯人に告ぐ』で作家としての殻を見事に破ってくれた。それはもう鮮やかなまでに。

 

劇場型捜査というあまりにも美味しそうな題材を、華麗に調理してくれている。これは傑作!

個別紹介記事⇒ミステリー史上最も格好良い決め台詞。雫井脩介『犯人に告ぐ』



33 星を継ぐもの 著:ジェイムズ・P・ホーガン

 

 

【星雲賞受賞作】
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。


世界のSF小説史上に残る名作『星を継ぐもの』である。

古い小説は読みたくないと避けているあなた!そう、そこのあなた!絶対に読みましょう。絶対に後悔はさせないから。

まず、この作品が面白いことは歴史が証明していることを考えてほしい。だって『星を継ぐもの』が発表されたのは1977年である。並の面白さの本だったらとっくに忘れ去られているはずだ。

それでも埋もれなかったのは、この作品でしか味わえないものがあるからに他ならない。


個別紹介記事⇒至高のSFここにあり。J・P・ホーガン『星を継ぐもの』


34 獣の奏者 著:上橋菜穂子

 

 

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが――。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける!

 

日本が誇る、最強ファンタジーの決定版。

 

これは…最高でしょ!

 

オッサンになったせいか最近ファンタジー作品になかなかハマれなかったのだが、これは完全に食らってしまった。睡眠時間削って読み漁ったぞ、このやろう。

児童作品に位置づけられているが、むしろ大人が読んで楽しむ作品だと思っている。

世界にはハリー・ポッターがあるかもしれんが、日本には『獣の奏者』があると言ってやりたい。こんな上質なファンタジーを生み出しちまった上橋菜穂子に拍手。



35 十角館の殺人 著:綾辻行人

 

 

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の七人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!’87年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。


もしこの作品を読んでいないのであれば、今すぐに読むのだ。それ以外、この作品をオススメするために必要な言葉はない。生きている内でたった一度しか味わえない衝撃を、『十角館の殺人』はもたらしてくれるのだから。

このトリックを考案してくれた綾辻行人に感謝感謝。

 

ミステリーの神様が彼に微笑んだとしか思えないような偉業である。


ちなみに、ツイッターでのオススメ本を集計したこちらのランキングでも、けっこうな高評価だったので、みんなヤラれたのは間違いなさそうである。

www.orehero.net

 

 

36 銀河英雄伝説 著:田中芳樹

 

 

人類が地球から旅立ち8世紀あまり。遠く離れた銀河で、巨大な帝国を築いたゴールデンバウム王朝と民主共和制を掲げる自由惑星同盟が長い間戦争を続けていた。

宇宙暦796年、帝国暦487年、膠着状態が続いたこの戦争だったが、帝国軍上級大将のラインハルト・フォン・ローエングラムと同盟軍准将のヤン・ウェンリーが、アスターテ星域で相まみえたことで変化の兆しが現れる――。

 

弩。

 

もうね、面白すぎてこれ以外の言葉が必要ないよね。

面白い小説の原点にして頂点。これを読めば小説の面白さはすべて摂取できると言っても過言ではない。

全10巻とかなり長大な作品だが、絶対に思うよ、「終わらないでくれ!!」って。

 

小説の歴史に燦然と輝く傑作である。

ちなみに私は『銀河英雄伝説』が面白すぎたせいで、読み終えたときに「もうこれで読書人生が終わってもいいかも」と本気で思ったぐらいだ。

 

37 ジェノサイド 著:高野和明

 

 

イラクで戦うアメリカ人傭兵と、日本で薬学を専攻する大学院生。まったく無関係だった二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は―人類の未来を賭けた戦いを、緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描き切り、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超弩級エンタテインメント、堂々の文庫化!


小説を読んでいて、ごくごくたまに感謝することがある。「この作品を生み出してくれてありがとう」と作者に感謝する気持ちである。

小説同士に優劣をつけるのはあまり好きではないのだが、『ジェノサイド』は抜きん出た傑作だと言わずにはいられない。

発売当時、書店であまりにも騒いでいるから逆に敬遠していたのだが、試しに読んでみたら衝撃。脳みそが溶けそうなぐらい興奮してしまった。

これも最高の徹夜小説である。必読。

個別紹介記事⇒高野和明『ジェノサイド』は最高のアドレナリン放出小説だった



38 欺す衆生 著:月村了衛

 

 

戦後最大かつ現代の詐欺のルーツとされる横田商事事件。その目撃者であり末端の営業マンであった隠岐は、かつての同僚の因幡と再開。導かれるがまま〈ビジネス〉を再興する。
取り返そうよ、ここらで僕達の人生を。僕と君は一蓮托生なのだから。
幾多の修羅を経て、詐欺の魅力に取り憑かれていく隠岐。ついには〈国家〉を欺く一大事業へと発展していくのだが……。 欺す者と欺される者、謀略の坩堝の果てに待ち受ける運命とは。

人間の業と欲を徹底的に炙り出す、規格外の犯罪巨編。

 

凶悪なまでの面白さ

家族のために詐欺に手を染めた主人公。

詐欺師の同僚、金の匂いを嗅ぎつけたヤクザなどなど、魑魅魍魎によって十重二十重に追い詰められた主人公は、次第に修羅の道へと堕ちていく…。

 

めちゃめちゃ面白いんだけど、凶悪すぎて絶対に本屋大賞とかにはノミネートできない類の作品。そんな不器用な所も愛してるよ。

 

 

39 七回死んだ男 著:西澤保彦

 

 

どうしても殺人が防げない!?不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう。渕上零治郎老人―。「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは。


SFとミステリーを融合させた名作『七回死んだ男』である。

作者の西澤保彦はどんな脳みそしてるんだろうか。一回覗いてみたいが、きっと私のような凡人が見たところでまったく理解できないような、ハイレベルな世界が構築されているのだろう。

“パズルミステリーの金字塔”と評されるこちらの作品。読後は、まさに巨大なパズルを完成させたようで、スッキリ感はピカイチである。



個別紹介記事⇒パズルミステリーの金字塔。西澤保彦『七回死んだ男』

 

40 死神の精度 著:伊坂幸太郎

 

 

CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。


おしゃれ作家伊坂幸太郎が死神を描くとこうなる。やっぱりセンスが違うんだろうなぁ。いちいち私たち読者の「面白え!」と感じるツボを刺激してくる。連作集になっていて非常に読みやすいのもポイント。

 

死神が仕事をする話なので、このあと人が死ぬことを理解しながら読者は読み進めるのだが、なぜか読んでいるときの感覚は「素敵」「爽快」「笑い」。

やはり伊坂幸太郎のセンスの賜物なのだろう。

 

読後は気分が軽くなること請け合いである。

 

個別紹介記事⇒『死神の精度』は侮れない

 

 

長編の方も文句なし。死神“千葉”がより活躍してます。

41 サウスバウンド 著:奥田英朗

 

 

小学校6年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても変わってるという。父が会社員だったことはない。物心ついた頃からたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、よその家はそうではないことを知った。父は昔、過激派とかいうのだったらしく、今でも騒動ばかり起こして、僕たち家族を困らせるのだが…。―2006年本屋大賞第2位にランキングした大傑作長編小説。


奥田英朗作品ばかりで申し訳ない。でもみんなこの面白さには納得してくれるはず。

伊良部作シリーズに続き、こちらも映像化作品である。「映像化したからすごい」というよりは、クリエイターに「映像化したい!」と思わせたことが凄いのである。映画化なんてかなりの労力を伴うからだ。だって、普通に生活してて映画化したいと思ったことある?ないでしょ。

こちらは2006年の本屋大賞2位を獲得した作品。だったら面白くて当然でしょ。

 



42 ハッピーエンドにさよならを 著:歌野晶午

 

 


夏休みのたびに私は母の実家がある田舎へ行った。新鮮な山海の料理に、いとこたちとの交流。楽しい夏の日々だ。あの部屋にさえ入らなければ…。(「死面」)理恵が合コンで出会い、付き合ったのは、容姿はよいがかなり内気な男。次第に薄気味悪い行動を取り始め、理恵は別れようとするのだが…(「殺人休暇」)。平凡な日常の向かう先が、“シアワセ”とは限らない。ミステリの偉才が紡ぎだす、小説的な企みに満ちた驚愕の結末。


歌野晶午の才能は短編でも十分に発揮されている。この鋭すぎる切れ味は、そんじょそこらの作家には出せないだろう。数ページでひっくり返りたいのであれば、『ハッピーエンドにさよならを』を読むべきである。

ただし、題名通り「幸せな結末」には期待しないこと。

読めば必ず、あなたの口元には邪悪な笑みが浮かぶはずだ。


個別紹介記事⇒ブラックな笑みをあなたに。歌野晶午『ハッピーエンドにさよならを』

 

43 悪の教典 著:貴志祐介

 

 

圧倒的人気を誇る教師、ハスミンこと蓮実聖司は問題解決のために裏で巧妙な細工と犯罪を重ねていた。三人の生徒が蓮実の真の貌に気づくが時すでに遅く、学園祭の準備に集まったクラスを襲う、血塗られた恐怖の一夜。蓮実による狂気の殺戮が始まった!ミステリー界の話題を攫った超弩級エンターテインメント。


ブラックな作品が続きます。

こちらも伊藤英明主演で映画化されている。高校生ひとクラス全員皆殺しにするという倫理観のカケラもないクソのような作品です。ある意味バトルロワイアル以上にヒドいです。

それにしても、よくもまあこんな作品を映画化したもんだ。映画関係者の倫理観を疑う。きっと「不謹慎極まりないけど、面白いからいいじゃん」という考えを持ったエンタメに魂を売ってしまった人々の集まりなのだろう。

 

もちろんエンタメに魂を最初に売ったのはこの物語を生み出した貴志祐介に他ならない。

読者の背徳感をぐりぐり刺激してくるから、ご注意を。



個別紹介記事⇒作家がエンタメに魂を売るとこうなる。貴志祐介『悪の教典』




44 くちびるに歌を 著:中田永一

 

 

長崎県五島列島のある中学校に、産休に入る音楽教師の代理で「自称ニート」の美人ピアニスト柏木はやってきた。ほどなく合唱部の顧問を受け持つことになるが、彼女に魅せられ、男子生徒の入部が殺到。それまで女子部員しかいなかった合唱部は、練習にまじめに打ち込まない男子と女子の対立が激化する。一方で、柏木先生は、Nコン(NHK全国学校音楽コンクール)の課題曲「手紙~拝啓十五の君へ~」にちなみ、十五年後の自分に向けて手紙を書くよう、部員たちに宿題を課した。そこには、誰にもいえない、等身大の秘密が綴られていた。青春小説の新たなるスタンダード作品、文庫化!


おっさんになると学生の青春モノが胸に来る。痛いぐらいである。目の前でこんなにキラキラされたら速攻で死ねる自信がある。きっとそんな私はもう腐っている…。

私は学生時代に部活で、吹奏楽にすべてを捧げていたようなタイプなので、『くちびるに歌を』の彼らには、なんか重ねてしまうものがある。あ、だからといって部活に熱中していない人が楽しめないわけではないのでご安心を。

 

書いてるのはあの乙一。中田永一というのは別のペンネームである。

あんまり安易な言葉を使いたくないのだが、奴は天才と言いたくなるような才能を有している。乙一名義のときと作風が全然違うが、変わらないのは作品の素晴らしさである。


ラスト付近で訪れるとあるシーンで私の涙腺は崩壊。上手すぎ。


個別紹介記事⇒青春とサプライズで大人の涙腺を破壊する。中田永一『くちびるに歌を』

 

45 ジョーカーゲーム 著:柳広司

 

 

結城中佐の発案で陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「死ぬな、殺すな、とらわれるな」。この戒律を若き精鋭達に叩き込み、軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く結城は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を上げてゆく…。吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞に輝く究極のスパイ・ミステリー。


はい、出た。スパイ小説の新たな金字塔『ジョーカー・ゲーム』である。こちらも実写化されているので、すでに有名だろう。

この作品の最大の見所は”魔王”こと結城中佐である。映画の方は見ていないのだが、誰が演じたんだろう?あれだけの存在感を放ちつつ、それでも亡霊のような男を演じられる役者なんて想像がつかない。

上質な推理小説としての切れ味も持ち合わせながら、キャラ萌えもありで、ニヤニヤしちゃう作品である。

 

ちなみに私は結城中佐を見たいがためだけに、続編も全て買ってしまった。


個別紹介記事⇒スパイ×スタイリッシュ×萌え=最高。柳広司『ジョーカー・ゲーム』

 


シリーズ4作目の『ラスト・ワルツ』は読まなくても大丈夫です。理由は秘密にしておくので、察してほしい。



46 クライマーズ・ハイ 著:横山秀夫

 

 

1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは―。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。


何度読み返したか分からない。味わえば味わうほど、味が出ててくる名作である。

物語の軸に据えられているのは日航機墜落事故。数々の名作を世に出してきた横山秀夫がこの題材を扱うのだから、名作になるのは必然。元新聞記者だった著者ならではの作品だろう。しかも事故当時も、自身が取材を敢行しているのだから、真に迫って当然である。

 

新聞社の裏側で繰り広げられる男たちの熱い戦いに胸がジンジンする。本気で記者という職業に憧れてしまう。私が感化されやすいだけ?いやいや、きっとみんなもヤラれるはずだ。


ちなみに著者お得意のミステリーではありませんので、悪しからず。


個別紹介記事⇒汗臭くて、でも何度でも読みたくなる。『クライマーズ・ハイ』横山秀夫

 

47 むかし僕が死んだ家 著:東野圭吾

 

 

「あたしには幼い頃の思い出が全然ないの」。7年前に別れた恋人・沙也加の記憶を取り戻すため、私は彼女と「幻の家」を訪れた。それは、めったに人が来ることのない山の中にひっそりと立つ異国調の白い小さな家だった。そこで二人を待ちうける恐るべき真実とは…。超絶人気作家が放つ長編ミステリ。


この作品も紹介するのが難しい!どう話してもネタバレになりそうで怖い。

なのでこんな記事で紹介しておきながら、「絶対に面白いから信じて読んでください」と言うしかないだろう。推薦文は放棄させてほしい。

 

あとはアマゾンのレビューがほとんど☆5だというのも、信用するに値するんじゃないだろうか。



48 永遠の0 著:百田尚樹

 

 

「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、一つの謎が浮かんでくる―。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。涙を流さずにはいられない、男の絆、家族の絆。


特攻隊というだけで我々日本人は心の琴線に触れるものがある。『永遠の0』は容赦なく我々の心を揺さぶってくる作品である。

泣ける小説と有名な作品って、ラストで泣けるのが大概だが、この作品の場合、いたる所に泣き所があって本当に困る。衆人環視の元では恥ずかしくて読めないぐらいだ。

百田尚樹はあのキャラクターのせいで、偏見を持ってしまって敬遠されているかもしれないが、作品はいたって健全であり、読者を楽しませる術を知り尽くしている作家である。


それにしても、これがデビュー作とは百田尚樹、恐るべし…。

泣き所多すぎ度…☆×5


49 ハサミ男 著:殊能将之

 

 

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作。


「あなたの好きなミステリー作品を10冊あげてください」
こんな質問を2ちゃんねるのミステリー板でしたとしよう。その答えの中に絶対に食い込んでくるのが『ハサミ男』である。この作品は世のミステリーズ好きを鮮やかに虜にした。素晴らしい作品だが、唯一の汚点と言えばメフィスト賞を受賞していることだ。残念でならない。

ちなみに著者は若くして亡くなっている。挑戦的な作品ばかりを書いていた方なので、非常に残念だ。もう彼の新作は読めないのだ。

しかし、この作品を生み出したことで、”殊能将之”の名はミステリー界では永遠に語り継がれることだろう。


個別紹介記事⇒知り合いに勧めて好評だった小説11冊目『ハサミ男』殊能将之

 

 

50 プロジェクト・ヘイル・メアリー 著:アンディ・ウィアー

 

 

グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。 

 

なんだこの感情、この涙は…!!

 

読み終えたとき、胸に真っ先に去来したのは圧倒的な感謝。

こんな素晴らしい作品との出会いに、そしてこんな素晴らしい作品を生み出してくれた著者への。

 

前知識一切なしで読んだ自分は偉い。読書好きの皆さんが騒いでたから信じて、あらすじも一切見ずに読んだんだよね。最高の状態で最高の物語を楽しめた。

 

いやー、これは濃厚な読書体験だった…。人間の想像力はなんと凄まじく偉大なのか。

 

文句なしの2022年の年間ベスト

 

 

51 99%の誘拐 著:岡嶋二人

 

 

末期ガンに冒された男が、病床で綴った手記を遺して生涯を終えた。そこには八年前、息子をさらわれた時の記憶が書かれていた。そして十二年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける。第十回吉川英治文学新人賞受賞作。


ザ・タイトルのダサさで損をしている作品である。このタイトルを見て買う気になる人がいるとは到底思えない。

マンガではよくあるのだが、岡嶋二人というのは井上夢人と徳山諄一の2人による合作ペンネームである。主に徳山がトリックを考案し、井上夢人が文章を書くというスタイルだったそうだ。中には井上夢人がネタを考えているものもあるのだが、ミステリーとはかなりかけ離れた作品になっている。面白いのは確かなのだが。

今はコンビを解消している2人だが、最後に書いた作品がこちらの『99%の誘拐』である。

元々岡嶋二人は「人さらいの岡嶋」と呼ばれるほど、誘拐ネタが得意な作家。そんな彼らの誘拐作品の中でも最高傑作と呼び声高いのがこちらの『99%の誘拐』である。

完成度の高さに興奮すること間違いなしだろう。



52 永遠の出口 著:森絵都

 

 

「私は、“永遠”という響きにめっぽう弱い子供だった。」誕生日会をめぐる小さな事件。黒魔女のように恐ろしい担任との闘い。ぐれかかった中学時代。バイト料で買った苺のケーキ。こてんぱんにくだけちった高校での初恋…。どこにでもいる普通の少女、紀子。小学三年から高校三年までの九年間を、七十年代、八十年代のエッセンスをちりばめて描いたベストセラー。第一回本屋大賞第四位作品。


森絵都は分かってる。人の柔らかい部分を貫く術を。

子供から大人へ。これを擬似的に体験できる作品である。

森絵都の文章が巧みすぎて、思春期特有の”青さ”が読者の心にグッサグサ刺さる。読みながら黒歴史を掘り返されてるようで、悶絶すること請け合いである。憤死しないように気をつけてほしい。


個別紹介記事⇒あなたの黒歴史をあぶり出す小説。森絵都『永遠の出口』

 

53 正欲 著:朝井リョウ

 

 

これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?

作家生活10周年記念作品・黒版。
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。

 

いくつもの話題作を上梓してきた朝井リョウだが、間違いなく『正欲』が最高傑作である。読書中毒ブロガーの名にかけて断言しよう。こんなに打ちのめされる作品、そうそうないよ。

これは絶対にあらすじさえも知らずに読むのが正しいから、内容の説明はしません。

ただ、この作品が響かない人間はいない、とだけ断言しておこう。読み終えたら、ダメージのあまりに倒れ込んじゃうはず。

 

最高のぶん殴られ小説である。

 

 

54 有頂天家族 著:森見登美彦

 

 

「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、狸の名門・下鴨家の三男。宿敵・夷川家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け廻る。が、家族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて人間の美女にうつつをぬかす。世紀の大騒動を、ふわふわの愛で包む、傑作・毛玉ファンタジー。


ダメ大学生を描かせたら日本一の作家、森見登美彦。だが今作の主人公は、なんとタヌキ。というかほとんどタヌキしか出来てきません。他に出てくるのは天狗、天女?とにかく人間が出て来ない。なのにクレイジーな面白さ!タヌキを舐めたらアカンぜ。誰も舐めてないだろうけど。

一読すればタヌキ達の毛深い愛に胸を打たれてしまう、異様な作品である。妙に感動させられてしまった。

 

タヌキに泣かされるのは人生の中でこれっきりだろう。そういう意味では貴重な作品である。


個別紹介記事⇒舐めたらアカンぜ。隠れた名作『有頂天家族』森見登美彦

 

 

55 占星術殺人事件 著:島田荘司

 

 

密室で殺された画家が遺した手記には、六人の処女の肉体から完璧な女=アゾートを創る計画が書かれていた。その後、彼の六人の娘たちが行方不明となり、一部を切り取られた惨殺遺体となって発見された。事件から四十数年、迷宮入りした猟奇殺人のトリックとは!?名探偵御手洗潔を生んだ衝撃作の完全版登場!


日本に数ある推理小説の中でも、“最強”の称号をほしいままにしている作品である。

私はこの作品に出会ってしまったがために、推理小説の世界にドハマリし、未だに抜け出せていない。呪いのような作品である。


作品の中で出て来る、40年間解決されなかったという事件の真相は、とても人間の脳みそから生み出されたとは思えないほどの衝撃をもたらす。

あぁ…できることなら記憶を消して、もう一度あの感動を味わいたい…。


個別紹介記事⇒【小説紹介】島田荘司 『占星術殺人事件』 これを超えるトリックは無い。



56 爆弾 著:呉勝浩

 

 

些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。

 

安易すぎて使いたくない表現だけど、まさに爆弾級の面白さ

謎の不愉快なオヤジが暴行容疑で警察に逮捕されるんだけど、こいつが突然取り調べの最中に“予言”をする。内容は「10時に秋葉原で爆発が起こる」というもの。

そして実際に爆発。さらにまだ爆発は起こると…。

もし予言通りのことが起これば、東京は大惨事に。膨大な数の被害者を生み出してしまう。

謎のオヤジは本当の預言者なのか。それとも稀代の爆弾魔なのか。

 

私がこれまで読んできた小説の中でも屈指の不愉快人物が出てくる本書。最悪すぎるゆえに最高の仕上がりになっているので、不愉快になりたい方はぜひ!!

こんな飛び抜けたエンタメ作品そうそう出会えないよ。

 

 

57 舟を編む 著:三浦しをん

 

 


出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!

 

誰もが使ったことがある辞書。それがいかにして作られているのか知れる貴重な作品である。この設定ですでに圧勝が確定している作品だと思う。辞書編纂部を描くなんて、面白くならないはずがない。特に本好きが興味を持たないはずがないだろう。

この作品の主人公はきっと辞書そのものだ。辞書という存在を軸にドラマが繰り広げられる。

気持ちのいい登場人物ばかりが出て来るので、読んでいて非常に清々しい作品である。ここまで“毒”を省いたエンタメ作品も昨今では珍しい。

それにしても、実写化に松田龍平と宮崎あおいを起用したのは、大正解だなぁ。映画の方は観てないけど。

 

58 殺人症候群 著:貫井徳郎

 

 

警視庁内には、捜査課が表立って動けない事件を処理する特殊チームが存在した。そのリーダーである環敬吾は、部下の原田柾一郎、武藤隆、倉持真栄に、一見無関係と見える複数の殺人事件の繋がりを探るように命じる。「大切な人を殺した相手に復讐するのは悪か?」「この世の正義とは何か?」という大きなテーマと抜群のエンターテインメント性を融合させた怒涛のノンストップ1100枚。


重い…重すぎる…。

読むほどに胸が締め付けられる。心をえぐられる。だけど読み進めずにはいられない。それは貫井徳郎が紡ぐ物語の結末を知りたいから。彼の流麗な文章が止まることを許してくれないから。

著者の貫井徳郎は「現代版必殺仕事人」を描きたかったと語っていて、確かにその要素もあるのだが、もっと大きなテーマが真正面からぶつかってくる。突きつけてくる作品である。

ひとつ前に紹介した『舟を編む』の対極にあるような作品である。人によってはキツすぎるかもしれない。でも最高でっせ。

個別紹介記事⇒鬱小説の隠れた名作、貫井徳郎『殺人症候群』について 



ちなみに『殺人症候群』はシリーズもの。以下の2作品が前作なる。どちらも文句なしの面白さで、一気読み必至である。


それにしても、ダッサいタイトルだなぁ。もうちょい考えようがあっただろうに。

 

59 儚い羊たちの祝宴 著:米澤穂信 

 



夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。


これ大好物。

世の中に数ある推理小説短編集の中でも、これだけ読者の脳みそにドデカイ一撃を加える作品はない。断言しよう。

最後の一行“フィニッシングストローク”に特化しており、すべてが伏線と言っても過言ではないだろう。

 

米澤穂信があなたに食らわせる強烈な一撃に、ぜひとも“脳髄を冷たく痺れさせて”ほしい。


個別紹介記事⇒知り合いに勧めて好評だった小説9冊目『儚い羊たちの祝宴』米澤穂信

 

60 怪笑小説 著:東野圭吾

 

 

年金暮らしの老女が芸能人の“おっかけ”にハマり、乏しい財産を使い果たしていく「おつかけバアさん」、“タヌキには超能力がある、UFOの正体は文福茶釜である”という説に命を賭ける男の「超たぬき理論」、周りの人間たちが人間以外の動物に見えてしまう中学生の悲劇「動物家族」…etc.ちょっとブラックで、怖くて、なんともおかしい人間たち!多彩な味つけの傑作短篇集。


東野圭吾の悪ふざけ本領発揮でございます。

おふざけ小説も東野圭吾が本気で取り組むと、異常なクオリティになる。収録作はどれもこれも素晴らしいのだが、個人的なNo.1は『超たぬき理論』。東野圭吾も相当自信があったらしい。まさに、である。

粒選りな作品集なだけあって、この中から「世にも奇妙な物語」の原作になっている作品や、映像化、舞台化されているものが多数ある。ただの悪ふざけで終わっていない所がさすが東野圭吾。



ちなみに、この東野圭吾のおふざけ小説はシリーズになっているので、そちらもどうぞ。


個別紹介記事⇒『怪笑小説』という悪ふざけの到達点について

 

 



61 サクリファイス 著:近藤史恵

 

ぼくに与えられた使命、それは勝利のためにエースに尽くすこと―。陸上選手から自転車競技に転じた白石誓は、プロのロードレースチームに所属し、各地を転戦していた。そしてヨーロッパ遠征中、悲劇に遭遇する。アシストとしてのプライド、ライバルたちとの駆け引き。かつての恋人との再会、胸に刻印された死。青春小説とサスペンスが奇跡的な融合を遂げた!大藪春彦賞受賞作。

 

読んだ人に影響与える小説は、いい小説だと思う。そういう意味で『サクリファイス』はめっちゃ影響を受ける。「自転車に…乗りてえっ!」って。

自転車レースという、日本では超マイナーな競技を扱っているのにも関わらず、2008年の本屋大賞にて堂々の2位に輝いた名作サスペンス。著者の自転車愛が文面から溢れでいる。好きだよ、愛。

レースのスピード感そのままにサクサクと進んでいくストーリー。練られまくって完璧とまで言えるプロット。そして書き込まれたドラマ…。

この短さでこの満足感はヤバイ。

読後は絶対に自転車に乗りたくなるから、先に用意しておくこと。

 

 

62 とっぴんぱらりの風太郎 著:万城目学

 

 


天下は豊臣から徳川へ―。重なりあった不運の末に、あえなく伊賀を追い出され、京(みやこ)でぼんくらな日々を送る“ニート忍者”風太郎。その人生は、1個のひょうたんとの出会いを経て、奇妙な方向へ転がっていく。やがて迫る、ふたたびの戦乱の気配。だましだまされ、斬っては斬られ、燃えさかる天守閣を目指す風太郎の前に現れたものとは?


万城目学もデビューの頃からずっと追っていて、どの作品を読んでも「面白い」と感じてた。だからこそ追っかけられていた。しかし、どこかしらに物足りなさというか、突き抜けていない印象も持っていた。

が、

『とっぴんぱらりの風太郎』で完全に一皮むけてやがった。これは面白い。面白すぎる。歴史モノで、さらには上下巻となかなかのボリュームだけど、グイグイ読めてしまうから安心してほしい。

 

余計な知識なしに、ひたすら没頭できる徹夜小説である。

 

 

63 葉桜の季節に君を想うということ 著:歌野晶午

 

 


「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命の出会いを果たして―。あらゆるミステリーの賞を総なめにした本作は、必ず二度、三度と読みたくなる究極の徹夜本です。


日本のミステリー史に燦然と輝く大傑作!

読み終われば呆然とすること請け合い。一体これは何なんだ…、と。

 

何を書いてもネタバレになってしまうので、何も書けません。こんなのどうやって紹介したらええんじゃい!

 

それにしても、こんなバケモノ作品を生み出した歌野晶午は偉い。きっとこの作品を世に生み落とすために彼は作家になったのだろう。

個別紹介記事⇒知り合いに勧めて好評だった小説1冊目 『葉桜の季節に君を想うということ』歌野晶午



 

64 邪魔 著:奥田英朗

 

 


及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供二人と東京郊外の建売り住宅に住む。スーパーのパート歴一年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がる。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織りこんだ傑作。


またしても奥田英朗の群像劇である。ちょっと勧めすぎかな…?

 

奥田英朗はストーリーよりも先にキャラクター作りこむそうだ。

そのおかげで登場人物たちの心情が真に迫ってくるし、作者が想像もできないような方向へ物語が勝手に進むし、勝手に面白くなるそう。

あまりにも登場人物たちの感情が伝わってくるので、人によっては「読んでて辛い…」となるかもしれない。実際、私の知人に読ませた所、結構不評だった。不評と言っても「つまらない」じゃなくて「分かりすぎて、読み進めるのがキツかった」というもの。

ということは、つまりそれだけの力を持った作品だということ。



65 タイム・リープ 著:高畑京一郎

 

 


鹿島翔香。高校2年生の平凡な少女。ある日、彼女は昨日の記憶を喪失している事に気づく。そして、彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えの無い文章があった。“あなたは今、混乱している。若松くんに相談なさい…”若松和彦。校内でもトップクラスの秀才。半信半疑ながらも、彼は翔香の記憶を分析する。そして、彼が導き出したのは、謎めいた時間移動現象であった。“タイム・リープ―今の君は、意識と体が一致した時間の流れの中にいない…”第1回電撃ゲーム小説大賞で「金賞」を受賞した高畑京一郎が組み上げる時間パズル。


こちらも最高のパズルミステリー。タイムトラベルを扱った作品には名作が多いが、その中でも『タイム・リープ』は抜きん出た傑作だと思う。

後半の解決に向かっていく流れは秀逸の一言!とにかく気持ちいい!読んだら絶対他の人に勧めたくなるはず。


個別紹介記事⇒高畑京一郎の『タイム・リープ』が完成されすぎてて死ねる


 

66 旅のラゴス 著:筒井康隆

 

 


北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。


「人生で一番面白かった小説」

そう語る人が後を絶たない。良質な物語は本の中だけでは終わらず、我々の頭の中で生き残り続ける。

巨匠筒井康隆が綴るこの物語は、私たちが生きるうえで大事なことを教えてくれるはず。最高の人生と呼ばれるもののひとつの形が、この物語の中にある。


ただ、あまりにも「人生最高の小説」というハードルを意識しすぎると、肩透かしを食うので、肩肘張らずに楽しんでいただきたいと思う。良くも悪くも、所詮は“小説”ですから…。


個別紹介記事⇒生涯最高の一冊になる理由。筒井康隆『旅のラゴス』

 

67 ゴールデンスランバー 著:伊坂幸太郎

 

 


衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ?何が起こっているんだ?俺はやっていない―。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。


2008年の本屋大賞を獲得したこちらの作品。ずっと評価の高かった伊坂幸太郎が「やっと受賞」といった感じだった。直木賞は辞退してしまっているし、伊坂が絡める賞レースといったらもう本屋大賞しかなかったからなぁ。

 

どれもこれも面白いのが伊坂作品だが、こちらは話のスケールといい、伊坂幸太郎の持ち味の炸裂具合といい、誰にでも自信を持って勧められる。映画化したのも、それだけ“万人受け”すると思われたからだろう。

 

 

68 神様のカルテ 著:夏川草介

 

 


栗原一止は信州にある「二四時間、三六五日対応」の病院で働く、悲しむことが苦手な二十九歳の内科医である。職場は常に医師不足、四十時間連続勤務だって珍しくない。ぐるぐるぐるぐる回る毎日に、母校の信濃大学医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば最先端の医療を学ぶことができる。だが大学病院では診てもらえない、死を前にした患者のために働く医者でありたい…。悩む一止の背中を押してくれたのは、高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった。二〇一〇年本屋大賞第二位、日本中を温かい涙に包み込んだベストセラー、待望の文庫化。


これは売れるべくして売れた作品である。だって、純粋に評価できる作品なのだから。

いい物語であるポイントというのは、「どれだけ読者の感情を揺さぶるか?」である。それがドラマであり、エンタメの本質だ。

『神様のカルテ』を読み始めれば、あなたの感情は上下左右に揺さぶられまくるはずだ。最高のドラマを感じられるはずだ。

続編が出る作品にハズレはない、という好例。

ということで、続編はこちら。

 

 

 

69 ワイルド・ソウル 著:垣根涼介

 

 


その地に着いた時から、地獄が始まった―。1961年、日本政府の募集でブラジルに渡った衛藤。だが入植地は密林で、移民らは病で次々と命を落とした。絶望と貧困の長い放浪生活の末、身を立てた衛藤はかつての入植地に戻る。そこには仲間の幼い息子、ケイが一人残されていた。そして現代の東京。ケイと仲間たちは政府の裏切りへの復讐計画を実行に移す!歴史の闇を暴く傑作小説。


学がないもので、ブラジル移民がそんなにも壮絶な経験をしているとは全く知らなんだ…。

ド直球のクライムノベル(犯罪小説)なのだが、こういった作品を書くためには犯人側から見ても、警察側から見ても瑕疵がないように構成やトリックを考えなくてはならない。そういう意味では非常に周到に練り上げられた作品と言えるだろう。作者偉い。

作者の垣根涼介はこの作品で大藪春彦賞・吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞をトリプル受賞している。面白い本を探すときに権威を頼りにはしたくはないが、それでも納得の出来栄えである。

こちらも読めばすぐに時間を忘れさせてしまう、超傑作。



個別紹介記事⇒棄民が日本に復讐する壮大な犯罪小説!垣根涼介『ワイルド・ソウル』

 

70 GOTH 著:乙一

 

 


森野夜が拾った一冊の手帳。そこには女性がさらわれ、山奥で切り刻まれていく過程が克明に記されていた。これは、最近騒がれている連続殺人犯の日記ではないのか。もしも本物だとすれば、最新の犠牲者はまだ警察に発見されぬまま、犯行現場に立ちすくんでいるはずだ。「彼女に会いにいかない?」と森野は「僕」を誘う…。人間の残酷な面を覗きたがる悪趣味な若者たち―“GOTH”を描き第三回本格ミステリ大賞に輝いた、乙一の跳躍点というべき作品。


はい乙一作品3作目。しつこいかな。まあ気にせず紹介しようじゃないか。

乙一は面白い小説しか書かないので、いちいちオススメする必要もないのかもしれない。だけど、乙一の名を世に知らしめた『GOTH』を紹介しないわけにはいかないだろう。だって、読んだら絶対に「こいつ天才!」と叫ぶはずだ。私は叫んでないけど。

まあそれくらいヤベえ作品だってことだと受け取ってもらえれば。

力を抜いて臨んでいただきたい。これが乙一だ。


 

71 神様の罠 アンソロジー

 

 

人気作家6人の新作ミステリーがいきなり文庫で登場!

現在のミステリー界をリードする6人の作家による豪華すぎるアンソロジー。

最愛のひととの別れ、過去がふいに招く破綻、思いがけず露呈するほころび、
知的遊戯の結実、そして、コロナ禍でくるった当たり前の日常……。

読み解き方も楽しみ方も六人六様の、文庫オリジナルの超絶おすすめ本です。

 

これは大当たり!!

アンソロジーって当たり外れが多いし、目当ての作家が少なかったりするからんまり好きじゃなかったんだけど、完全に良い意味で裏切られた。ほぼ完璧じゃないか?

個人的には乾くるみの作品が一番好み。いや、やっぱり辻村深月かな?でもやっぱり米澤穂信も…ってなるぐらい良作揃いのアンソロジー。贅沢だったー。

 

 

72 ウォッチメイカー 著:ジェフリー・ディーヴァー

 

 


“ウォッチメイカー”と名乗る殺人者あらわる。手口は残忍で、いずれの現場にもアンティークの時計が残されていた。やがて犯人が同じ時計を10個買っていることが判明、被害者候補はあと8人いる―尋問の天才ダンスとともに、ライムはウォッチメイカー阻止に奔走する。2007年度のミステリ各賞を総なめにしたシリーズ第7弾。


数あるリンカーン・ライムシリーズの中でも最強のどんでん返し度を誇る作品。

作者のジェフリー・ディーヴァーは小説を書くために生まれてきた男のようだ。ちなみに妹さんも小説家なんだとか。さらに言うとディーヴァーはテリー伊藤みたいな顔をしている。

小説家になって良かったね。

 

なんか全然紹介できてないけど、面白さレベルで言ったら、この記事ので紹介している作品の中でも屈指のレベルである。大体にして、世界レベルで売れてる作品だし。私が言葉を重ねる必要もないだろう。


個別紹介記事⇒どんでん返しがある、と先に言い切る凄さ。『ウォッチメイカー』



 

73 夜は短し歩けよ乙女 著:森見登美彦

 

 


「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。


森見登美彦が生み出す女性は、モテない男達の理想を具現化したようだ。ホントに可愛い…と感じてしまう私はきっとモテない男なのだろう。悲しい。

まあ簡単に言えばこの主人公は天然である。モテない男は天然女子が好きなのだ。つまり、武装してない隙だらけな感じが安心感を与えるのだろう。自分の攻撃力の無さを自覚している男からすれば、女神みたいなもんだ。一体さっきから何の話をしているのだ。

ということで、本屋大賞2位なので、絶対面白い。以上。


個別紹介記事⇒『夜は短し歩けよ乙女』に森見登美彦のチャレンジを感じた 



 

74 仮面山荘殺人事件 著:東野圭吾

 

 


八人の男女が集まる山荘に、逃亡中の銀行強盗が侵入した。外部との連絡を断たれた八人は脱出を試みるが、ことごとく失敗に終わる。恐怖と緊張が高まる中、ついに一人が殺される。だが状況から考えて、犯人は強盗たちではありえなかった。七人の男女は互いに疑心暗鬼にかられ、パニックに陥っていった…。


東野圭吾め…どれだけ傑作を生み出せば気が済むんだ…。

そんなことを思わせるぐらい小説界を縦横無尽に駆け抜けている東野圭吾。彼が一人いれば大体の読者層はカバーできてしまうんじゃないだろうか?

元々、江戸川乱歩賞でデビューした東野圭吾だが、推理小説というジャンルに限界を感じ始めたことで色々な取り組みを始める。

その中で生まれたのが先に紹介した『ある閉ざされた雪の山荘で』や『むかし僕が死んだ家』、『悪意』などの傑作である。

そしてその時期に彼が生み出した最高の推理小説がこちらである。

まさに最強。読めば分かる。読まなければこの驚きに値する経験はできない。一生できない。断言しよう。それくらいの作品。

 

75 人体模型の夜 著:中島らも

 

 


一人の少年が「首屋敷」と呼ばれる薄気味悪い空屋に忍び込み、地下室で見つけた人体模型。その胸元に耳を押し当てて聞いた、幻妖と畏怖の12の物語。18回も引っ越して、盗聴を続ける男が、壁越しに聞いた優しい女の声の正体は(耳飢え)。人面瘡評論家の私に男が怯えながら見せてくれた肉体の秘密(膝)。眼、鼻、腕、脚、胃、乳房、性器。愛しい身体が恐怖の器官に変わりはじめる、ホラー・オムニバス。


中島らもの作品の中でも異色である。短編集なのですが、あまりにもキレッキレなので「別人が書いたのでは?」と疑いたくなるほど。私が知ってる中島らもじゃ、こんな優れた作品は書けないはず。

たぶんクスリをやりながら書いたんじゃないかなと思っています。


個別紹介記事⇒【小説紹介】 中島らも 『人体模型の夜』 ドラッグが生み出した傑作 

 

 

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76 村上海賊の娘 著:和田竜

 

 


和睦が崩れ、信長に攻め立てられる大坂本願寺。海路からの支援を乞われた毛利は村上海賊に頼ろうとした。その娘、景は海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女だった…。


Amazonのレビューでけっこう酷評されていた。マンガ的すぎる?中身がない?

はあ?何言ってるんだ、あなた達は。小説なんてね、面白ければそれでいいのだ。お菓子に価値を見出そうとするようなものだ。食べて美味しい。読んで面白い。それだけで価値があることを忘れちゃアカン。

あと私の持論として、「小説が面白くない原因の半分は読者にある」、だ。

作品の面白さを受け取れる感度がない人には、どんな作品も面白くは感じられないはず。



77 クラインの壺 著:岡嶋二人

 

 


ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は…。現実が歪み虚構が交錯する恐怖。


この作品を実際に書いているのはほとんど井上夢人だろうな。この流麗なリーダビリティは彼にしか生み出せないから。

こちらも当時の最先端をいく「バーチャルリアリティ」を題材にしたもの。『クリス・クロス-混沌の魔王』とネタが被っているので悪しからず。
なんでもこの作品のラストで、徳山淳一と意見が割れたそうで、それが岡嶋二人の解散にも繋がっているのかも。名作を連発してきた2人だけに、残念でならない。

 

78 オリンピックの身代金 著:奥田英朗

 

 


小生 東京オリンピックのカイサイをボウガイします―兄の死を契機に、社会の底辺ともいうべき過酷な労働現場を知った東大生・島崎国男。彼にとって、五輪開催に沸く東京は、富と繁栄を独占する諸悪の根源でしかなかった。爆破テロをほのめかし、国家に挑んだ青年の行き着く先は?吉川英治文学賞受賞作。


奥田英朗作品紹介しすぎだな。本当に。

だけど、これだけは、マジで、本当に、ヤバイ作品なのでぜひ紹介させてほしい。

 

とにかく熱い。暑い。アツい!

読んでいて汗が滴り落ちそうなぐらいである。もうね、夏に読んだら熱中症で死ぬじゃないだろうか。

だけどそれくらいの熱量があるからこそ、こんなにも物語の中に引き込まれるのだろう。熱中度も半端ではない!主人公の島崎と一緒に東京オリンピックを「ボウガイ」しましょう。

 

2020年の東京五輪キッカケでまた売れるといいなぁ。

 

79 罪の轍 著:奥田英朗

 

 


昭和三十八年。北海道礼文島で暮らす漁師手伝いの青年、宇野寛治は、窃盗事件の捜査から逃れるために身ひとつで東京に向かう。東京に行きさえすれば、明るい未来が待っていると信じていたのだ。一方、警視庁捜査一課強行班係に所属する刑事・落合昌夫は、南千住で起きた強盗殺人事件の捜査中に、子供たちから「莫迦」と呼ばれていた北国訛りの青年の噂を聞きつける―。オリンピック開催に沸く世間に取り残された孤独な魂の彷徨を、緻密な心理描写と圧倒的なリアリティーで描く傑作ミステリ。

 

最高! これだよ、これっていうやつ。

 

『オリンピックの身代金』と良い意味で対を成す名作。時代背景も同じで、どちらも甲乙つけがたい。まあ両方読めば間違いないだろう。

 

奥田英朗が犯罪モノに本気を出すと最高の作品できるというのを、証明してしまった。

オリンピックを翌年に控え、エネルギーに満ちた東京を舞台に繰り広げられる犯人と警察の戦い。これがもう渋くて、熱くて…。一応ミステリのジャンルに分類されているけれど、単純にドラマとして楽しんでほしい。キャラクターたちの息遣い、心の動きに同調してる内に、読むのが止められなくなるから。

本気で寝られなくなる気をつけてほしい。私はラストの方で、面白くなりすぎて、でも読み終えるのがもったいなくてで、本を閉じたり開いたりと、完全に欲求がバグってしまった。

恐ろしい作品である。

 

80 さまよう刃 著:東野圭吾

 

 


長峰の一人娘・絵摩の死体が荒川から発見された。花火大会の帰りに、未成年の少年グループによって蹂躪された末の遺棄だった。謎の密告電話によって犯人を知った長峰は、突き動かされるように娘の復讐に乗り出した。犯人の一人を殺害し、さらに逃走する父親を、警察とマスコミが追う。正義とは何か。誰が犯人を裁くのか。世論を巻き込み、事件は予想外の結末を迎える―。重く哀しいテーマに挑んだ、心を揺さぶる傑作長編。


犯罪被害者が救われることはない。そんなものは幻想である。そしてまた被害者家族も救われることはない。

読者はこの犯人を許すことはできないはずだ。キレイ事小説であれば「憎しみの昇華」なんて体裁を取るかもしれない。そうやって、読者に「逃げ」を用意することもできたと思う。

しかし東野圭吾は人々が避ける領域にあえて突っ込んで作品を仕上げてきた。キレイ事は何ひとつない。読んでいて苦しさばかりを感じる作品だ。

だけど、いやだからこそ、一読の価値がある作品だ。

売れっ子の東野圭吾が書いた、このテーマに挑戦した、という事実が彼の魂に触れたような気にさせてくれる。創作ってのはこういうことなのだ。



81 第三の時効 著:横山秀夫

 

 

殺人事件の時効成立目前。現場の刑事にも知らされず、巧妙に仕組まれていた「第三の時効」とはいったい何か!?刑事たちの生々しい葛藤と、逮捕への執念を鋭くえぐる表題作ほか、全六篇の連作短篇集。本格ミステリにして警察小説の最高峰との呼び声も高い本作を貫くのは、硬質なエレガンス。圧倒的な破壊力で、あぶり出されるのは、男たちの矜持だ―。大人気、F県警強行犯シリーズ第一弾。

 

横山秀夫お得意の警察小説である。そして紛うことなき彼の最高傑作である。
 
これは凄い。何が凄いって、出てくる警察達の最強感が半端じゃない。どいつもこいつも「事件を解決しちゃう感」が満点で、見ていてワクワクが止まらないのだ。主役級がポコポコ出て来る。マンガで例えるなら『キングダム』。
 
あとは横山秀夫が記者時代に築き上げた経験が遺憾なく発揮されている点だろう。この臨場感は実際に知っている人間だからこそ、のものだろう。


そして短編小説として抜群の切れ味。これは間違いない。



82 黒い家 著:貴志祐介

 

 


若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに…。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。


これほど読者を恐怖の底に叩き落とした作品は他にないだろう。文章だけで怖がらせてしまうって、貴志祐介どんだけ凄えんだよ?さすが、魂と毛根をエンタメに捧げた男である。恐怖を扱わせても、最高に面白い作品を生み出しやがる。

この作品には幽霊は出てこない。読者を恐怖のどん底に突き落とすのは、紛れもない生身の人間である。それ故に、実生活にまでのその恐怖感が侵食してくるのだ。この恐怖は実際に体感してほしい。

『黒い家』を読んでから、一人暮らしのアパートに帰るのが怖くなったのはいい思い出である。


個別紹介記事⇒知り合いに勧めて好評だった小説6冊目 『黒い家』貴志祐介 



83 DINER 著:平山夢明

 

 

ひょんなことから、プロの殺し屋が集う会員制ダイナーでウェイトレスをする羽目になったオオバカナコ。そこを訪れる客は、みな心に深いトラウマを抱えていた。一筋縄ではいかない凶悪な客ばかりを相手に、カナコは生き延びることができるのか? 次々と現れる奇妙な殺し屋たち、命がけの恋──。

人の「狂気」「恐怖」を描いて当代随一の平山夢明が放つ、長編ノワール小説。

 

映像化にマンガ化と、平山夢明最大のヒット作となった『DINER』である。

有名すぎて私が紹介するまでもないかもしれないが、数少ない未読の方を道連れにするためにもぜひ紹介したい。

はっきり言って平山夢明は万人に勧められるものではない。だが『DINER』に関しては、彼の良さを一番ポップに摂取できるので、かなりオススメである。

基本的には最悪な話なんだけど、要所要所でキラリと光るものがあって、読み味はむしろ清涼感がある。身体は血みどろ脳漿まみれになるんだけど。

 

いい匂いのするドブ。綺麗な吐瀉物。触り心地のいい臓物。そんな感じに相反する感情を味わえる、最悪で最高な小説です。

 

 

84 海賊とよばれた男 著:百田尚樹

 

 


一九四五年八月十五日、敗戦で全てを失った日本で一人の男が立ち上がる。男の名は国岡鐡造。出勤簿もなく、定年もない、異端の石油会社「国岡商店」の店主だ。一代かけて築き上げた会社資産の殆どを失い、借金を負いつつも、店員の一人も馘首せず、再起を図る。石油を武器に世界との新たな戦いが始まる。


まあ偉人伝なんでしょうね。ただ偉人の話で鼻血が出るほど興奮したことありますか?まあ私もないですけど。でも鼻血が出そうなぐらい面白い。主人公の国岡鐡造が格好良すぎ。そして泣かせすぎ。

やはり百田尚樹の作家としての才能は本物である。

イヤなやつだろうが、受刑者だろうが、赤ちゃんだろうが、どんな人間が書こうとも、面白い作品に罪はないのである。

 

あと、この作品に対して「史実と違うからけしからん!」とか言ってる人は、全然分かってないから、楽しむのを諦めた方がいいと思う。楽しむ才能がないみたいだから。



85 深夜特急 著:沢木耕太郎

 

 


インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合いバスで行く―。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは、「大小」というサイコロ博奕に魅せられ、あわや…。1年以上にわたるユーラシア放浪が、今始まった。いざ、遠路2万キロ彼方のロンドンへ。


この本はお父さんに読ませてはいけません。

何故なら、明日から家に帰ってこなくなるからです。


この本を新社会人に読ませてはいけません。

何故なら、明日から会社に行かなくなるからです。

いいか?絶対に読ませるなよ!



読んだらすぐに飛び出したくなってしまう、悪魔的名作である。

 

 

86 64(ロクヨン) 著:横山秀夫

 

 


元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官・三上義信。記者クラブと匿名問題で揉める中、“昭和64年”に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。だが被害者遺族からは拒絶され、刑事部からは猛反発をくらう。組織と個人の相克を息詰まる緊張感で描き、ミステリ界を席巻した著者の渾身作。


前作の『震度0』を上梓してから6年もの間、何の音沙汰もなかった横山秀夫。『震度0』がイマイチだったので、「もう才能使い果たしちゃったか…」と勝手に決めつけていた。

どうやら私の思い過ごしだったようだ。この作品を書き上げるために時間が必要だったんだな!

待ったかいがあった…。ホントに。最高すぎるよ、これ。

 

色々な問題が絡み合う物語は他人事だからこそ最高に楽しめる。主人公の苦悩もエンタメ的には最高のスパイスである。

横山秀夫渾身の一撃を喰らいやがれ。


個別紹介記事⇒横山秀夫の最高傑作『64(ロクヨン)』を読んで欲しい 

 

87 われ笑う、ゆえにわれあり 著:土屋賢二

 

 


愛ってなんぼのものか、わたしはこうして健康に打ち勝った、あなたも禁煙をやめられる、なにも考えないで楽しく生きる方法、超好意的女性論序説、汝みずからを笑え…などなど本邦初の「お笑い哲学者」が、人間について哲学的に、大マジメに考察した、摩訶不思議、変幻自在、抱腹絶倒の処女エッセイ集。

 

ここまで笑えて、しかも得るものが何もない本に出会ったことがない。

唯一無二を地で行く、素晴らしく下らないエッセイである。でも最高である。そして天才的。

 

偏屈な人には最高の本になることだろう。


個別紹介記事⇒最強のエッセイを紹介する。『われ笑う、ゆえにわれあり』土屋賢二

 

 

88 関ヶ原 著:司馬遼太郎

 

 

東西両軍の兵力じつに十数万、日本国内における古今最大の戦闘となったこの天下分け目の決戦の起因から終結までを克明に描きながら、己れとその一族の生き方を求めて苦闘した著名な戦国諸雄の人間像を浮彫りにする壮大な歴史絵巻。秀吉の死によって傾きはじめた豊臣政権を簒奪するために家康はいかなる謀略をめぐらし、豊家安泰を守ろうとする石田三成はいかに戦ったのか。 

 

上中下巻で全1500ページ以上にも渡り、関ヶ原に関わった武将の思いや策謀の数々を描ききった作品。とにかく情報量がとんでもなく、圧倒されること間違いなし。

関ヶ原と題してはいるものの合戦自体を描いているのは下巻の最後の最後。そこまでは執拗なまでにこの世紀の大戦に至るまでの過程を書き記している。

これだけの文量を読まされるのだから、むしろ名作じゃなければ納得できないと思う。

結果は誰もが知っているが、それでも読ませてしまう司馬遼太郎の筆力。そして非常に学びの多い作品である。

 

 

個別紹介記事⇒映画『関ヶ原』の原作は映像化を想像できないような壮大な作品だった 

 

 

89 燃えよ剣 著:司馬遼太郎

幕末の動乱期を新選組副長として剣に生き剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑な生涯を描く。武州石田村の百姓の子“バラガキのトシ”は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作りあげ、己れも思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。「竜馬がゆく」と並び、“幕末もの”の頂点をなす長編。 

 

司馬遼太郎の名作をもういっちょ。

この人ね、天才だよ。間違いない。今まで歴史小説なんてまったく興味がなかった私をこんなにも魅了させてしまうんだから。

『関ヶ原』も最高だったけど、こちらの『燃えよ剣』も垂涎の一冊。

 

土方歳三の理解不能な性格、圧倒的な強さ、そしてふてぶてしい生き方。

『燃えよ剣』を読んだ私の土方歳三に対する印象は“魔人”である。人外と呼ぶに相応しい男だ。

 

時間を忘れさせてくれる小説にここ最近出会っていなかったが、これは久しぶりの大当たり。歴史モノと敬遠せずに、広く読んでもらいたい。

 

幕末を駆け抜けた土方歳三という喧嘩の天才の物語を、司馬遼太郎という天才の筆で堪能してくれ。

 

 

個別紹介記事⇒“魔人”の生き様ここにあり。司馬遼太郎『燃えよ剣』

 

 

90 あの頃ぼくらはアホでした 著:東野圭吾

 

 

命がけの学生時代!抱腹絶倒の青春記。小学校から大学まで、疾風怒濤の学生時代をパワフル&赤裸々に語る爆笑エッセイ。

 

現代日本を代表する超ベストセラー作家東野圭吾による最強エッセイ。個人的にエッセイはかなり好きで色々読んでいるが、その中でもこれは最高レベルの作品。他の追随を許さないほどの面白さを備えている。

東野圭吾は本当に何を書かせても面白くしちゃうんだなぁ…。

周囲を見つめる著者の冷めた視点と、フィクションとしか思えないような思い出たちとのミスマッチが絶妙な笑いを誘う。

 

電車の中で読むと苦しむだろう。ぜひ苦しんでほしい。

 

91 不夜城 著:馳星周

 

 


新宿・アンダーグラウンドを克明に描いた気鋭のデビュー作!おれは誰も信じない。女も、同胞も、親さえも…。バンコク・マニラ、香港、そして新宿―。アジアの大歓楽街に成長した歌舞伎町で、迎合と裏切りを繰り返す男と女。見えない派閥と差別のなかで、アンダーグラウンドでしか生きられない人間たちを綴った衝撃のクライム・ノベル。


日本にノワールという文化を根付かせた馳星周のデビュー作にして、最高傑作。これ以降はほとんど同じような作品を作り続けている。読者を圧倒的に魅了する作品だが、作者も魅了されてしまったのだろうか。

ノワールといってもピンと来ない人が多いと思うが、簡単に説明すると「金、女、ドラッグ、暴力」である。これらのアイテムを使って小説を書けば、それはもう立派なノワールである。本当の定義は知らん。

 

『不夜城』の文章には独特の”酔い”があって、これがとんでもなくクセになる。読んでいると気持よくなってしまうのだ。まるでドラッグをやっているような感覚で、リーダビリティはとはまた違った感覚である。


個別紹介記事→作者に呪いをかけたノワール小説の最高傑作。『不夜城』馳星周 

 

92 ナイルパーチの女子会 著:柚木麻子

 

 


丸の内の大手商社に勤めるやり手のキャリアウーマン・志村栄利子(30歳)。実家から早朝出勤をし、日々ハードな仕事に勤しむ
彼女の密やかな楽しみは、同い年の人気主婦ブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を読むこと。決して焦らない「おひょう」独特の価値観と切り口で記される文章に、栄利子は癒されるのだ。その「おひょう」こと丸尾翔子は、スーパーの店長の夫と二人で気ままに暮らしているが、実は家族を捨て出て行った母親と、実家で傲慢なほど「自分からは何もしない」でいる父親について深い屈託を抱えていた。
偶然にも近所に住んでいた栄利子と翔子はある日カフェで出会う。同性の友達がいないという共通のコンプレックスもあって、二人は急速に親しくなってゆく。ブロガーと愛読者……そこから理想の友人関係が始まるように互いに思えたが、翔子が数日間ブログの更新をしなかったことが原因で、二人の関係は思わぬ方向へ進んでゆく……。
女同士の関係の極北を描く、傑作長編小説。
第28回山本周五郎賞受賞作。

 

性悪を具現化するとこんな作品になる。悪すぎて笑っちゃったよ。

たぶん性悪系小説の部門でいえば、ベスト・オブ性悪。むしろ爽快だよね。ここまで振り切ってると。こういうの狂おしく好き。

 

女性のズルさとか汚さみたいなエグい部分を、紙面にテンポよく並べる手腕が凄まじくて、終始圧倒されていた。

これを読むまで自覚がなかったけど、私は無意識の内に女性に幻想を勝手に抱いていたみたいだ。女性たちの心理描写がキツすぎて、思ったよりもダメージを受けてしまった。

 

きつかったけどめちゃくちゃ面白い。超濃厚読書体験って感じ。

 

 

93 孤狼の血 著:柚月裕子

 

昭和63年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上とコンビを組むことに。飢えた狼のごとく強引に違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて金融会社社員失踪事件を皮切りに、暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か。血湧き肉躍る、男たちの闘いがはじまる。 

 

ドロッドロのコールタールよりも粘性がありそうな作品。こういうの大好き。

エンタメ作品の基本として、「悪いやつが悪ければ悪いほど面白い」という法則があって、『孤狼の血』はまさにその基本を忠実に踏襲した作品。悪モノばかりで最高である。

それと何よりも驚きなのは、この“血湧き肉躍る男たちの闘い”を書いているのが、女性だということ。格好良い男を書くのが上手い女性作家はたくさんいるけど、加齢臭ムンムンのオッサンを格好良く書いちゃう人は、柚月裕子をおいて他にいない。

 

ちなみにかなり期待大だったけど、続編の『凶犬の眼』はイマイチである。最終巻である『暴虎の牙』の踏み台になったっぽい。

 

 

94 天地明察 著:冲方丁

 

 

徳川四代将軍家綱の治世、ある「プロジェクト」が立ちあがる。即ち、日本独自の暦を作り上げること。当時使われていた暦・宣明暦は正確さを失い、ずれが生じ始めていた。改暦の実行者として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれた春海は己の境遇に飽き、算術に生き甲斐を見出していた。彼と「天」との壮絶な勝負が今、幕開く―。日本文化を変えた大計画をみずみずしくも重厚に描いた傑作時代小説。第7回本屋大賞受賞作。


本屋大賞にハズレなし。この作品もご多分に漏れず、かなりの名作。

日本独自の暦を作り上げるという壮大なプロジェクトを緻密に描き切った時代小説だが、最大の魅力はそんな謳い文句の中にはない。断固として違う。

読めば分かるが、これは最強のキャラ小説である。出てくるキャラクター達にいちいち魅了される。

特に水戸光圀がヤバい。読んでいる最中の私は「あーっ、こいつで別の作品を書いてくれー!!」と身悶えしたぐらい。

そしたら案の定、作者も気に入っていたようで翌年発売されています。

あれだけ魅力的なキャラを作り上げちゃったら、書かずにはいられなくて当然。

 

個別紹介記事⇒これは最高のキャラ小説である。冲方丁『天地明察』

 


こちらが光圀を主人公に据えた作品。虎と呼ばれた男に惚れること間違いなし。

 

95 ヒートアイランド 著:垣根涼介 

 

渋谷でファイトパーティーを開き、トップにのし上がったストリートギャング雅。頭のアキとカオルは、仲間が持ち帰った大金を見て驚愕する。それはヤクザが経営する非合法カジノから、裏金強奪のプロフェッショナルの男たちが強奪した金だった。少年たちと強奪犯との息詰まる攻防を描いた傑作ミステリー。

 

ヤクザから金を騙し取ろうとする若者たちの、ヒリヒリしっぱなしの物語で、垣根涼介お得意の疾走感も相まって、ぐいぐい読まされてしまった。面白純度が高すぎる。これはヤラれるでしょ。

気持ちのいい登場人物に、最高に嫌な敵役。練られまくった予測不可能なプロットに、スピード感溢れる文体、爽やかな結末。

非の打ち所がなさすぎて笑えるレベル。安心して身を任せていいタイプの作品です。 

 

96 エヴェレスト-神々の山嶺- 著:夢枕獏

 

1924年、世界初のエヴェレスト登頂を目指し、頂上付近で姿を消した登山家のジョージ・マロリー。登攀史上最大の謎の鍵を握る、マロリーのものと思しき古いコダックを手に入れた写真家の深町誠だが、何者かにカメラを盗まれる。行方を追ううち、深町は孤高の登山家・羽生丈二に出会う。羽生が狙うのは、エヴェレスト南西壁、前人未到の冬期無酸素単独登攀だった。山に賭ける男たちを描いた、山岳小説の金字塔。

 

作品の持つ力に圧倒されたい方に超オススメの名作。売れすぎたせいで、あらゆる出版社で文庫されているという珍しい作品である。私が読んだ版では、(出版形態が変わるたびに追加されていたため)あとがきが4つぐらい書かれていた。そんな本、他にあるか?

突き抜けた才能を持った者の孤独や葛藤、そして天に一番近い場所に魅せられた人たちの、濃厚なドラマである。

これを読んだあとは、登山をしたような疲労感でぐったりするので、読むタイミングには十分注意してもらいたい。その分、満足感もひとしおである。

 

97 みかづき 著:森絵都

 

昭和36年。小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い―。山あり谷あり涙あり。昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編! 

 

これまで同時代に生きる人間同士の“横の関係”を多数描いて名作を上梓してきた森絵都だが、今作は三世代の家族を描くという“縦の関係”である。

そしてテーマは“教育”。教育といえば教師とか学校だと思うが、そこはさすがの森絵都である。なんと塾側から教育を描き出す。

教育は世代をつなぐバトンのようなものだ。そこで語られるドラマには、“時間”という絶対的な力の存在が介在する。

時間の流れの中でもがく人々。次の世代に託す“教育”の本質。タイトル“みかづき”に込められた意味。

 

あんまり安易な言葉は使いたくないけど、現時点で森絵都作品ナンバー1だと思う。 

いやー、大満足でした。

 

98 新世界より 著:貴志祐介

 

 

子供たちは、大人になるために「呪力」を手に入れなければならない。一見のどかに見える学校で、子供たちは徹底的に管理されていた。いつわりの共同体が隠しているものとは―。何も知らず育った子供たちに、悪夢が襲いかかる。


貴志祐介の最高傑作。

彼が発表する作品はどれもこれも高品質。それゆえに非常に寡作な作家である。…まあ、たまにはハズレもあるけど。

その作品たちの中でも抜きん出た傑作がこちらの『新世界より』である。著者の卓越した想像力(妄想力?)と圧倒的な知識が生み出したこのディストピア小説。ひとたび手にすれば、睡眠時間が奪われること間違いなし!脳みそぐらんぐらんになりながら楽しもう。

とにかくのめり込める作品である。

個別紹介記事→貴志祐介の最高到達点『新世界より』を読むしかない

 

99 検察側の罪人 著:雫井脩介

蒲田の老夫婦刺殺事件の容疑者の中に時効事件の重要参考人・松倉の名前を見つけた最上検事は、今度こそ法の裁きを受けさせるべく松倉を追い込んでいく。最上に心酔する若手検事の沖野は厳しい尋問で松倉を締め上げるが、最上の強引なやり方に疑問を抱くようになる。正義のあり方を根本から問う雫井ミステリー最高傑作!

 

濃すぎてクラクラするぜ…。

雫井脩介の最高傑作と銘打つに相応しい作品。

 

敏腕検事最上(もがみ)は学生時代に可愛がっていた少女をとある殺人事件で失った過去を持つ。そしてその事件の犯人と確実視されていた男“松倉”が今また別の事件の参考人として自分の目の前に現れた。今度こそ奴に法の裁きを下すことができるのか。しかし状況は…。

 

新人検事の沖野は最上に憧れている。今回の事件で最上と初めて一緒に仕事をすることに。憧れの存在に認められたい気持ちから“松倉”への激しい追求を繰り返す。

しかし、捜査が進むにつれ松倉が犯人である可能性が少しずつ失われていく。一体真実は?そして捜査は怪しい雲行きへと…。

 

彼らふたりの物語と葛藤を描きながら、弩級の濃厚さで我々読者に「正義の存在」を見せつけてくる。 

『犯人に告ぐ』とは違い派手なドンパチがあるわけでもないのに、上下巻をのめり込むように楽しませてくれる。その手腕にはさすがの一言。やっぱり上手いわ、この人。

 

ちなみにタイトルの『検察側の罪人』は、ミステリーの女王アガサ・クリスティの『検察側の証人』のオマージュである。

 

Kindleで読む方はこちらの「合本」で購入すると安上がり。上下巻で別々に買わないようご注意を。

合本 検察側の罪人【文春e-Books】 

 

 

個別紹介記事→最初から最後までずっと面白い。でもずっと苦しい。『検察側の罪人』雫井脩介 

 

100 明日の記憶 著:荻原浩

 

 

広告代理店営業部長の佐伯は、齢五十にして若年性アルツハイマーと診断された。仕事では重要な案件を抱え、一人娘は結婚を間近に控えていた。銀婚式をすませた妻との穏やかな思い出さえも、病は残酷に奪い去っていく。けれども彼を取り巻くいくつもの深い愛は、失われゆく記憶を、はるか明日に甦らせるだろう!


遂に最後である。最後にふさわしい作品はこちら、『明日の記憶』である。

海外で映画の撮影中だった渡辺謙が、書店でたまたま手に取った本書にあまりにも感動してしまったそうで、作者の荻原浩に直接電話をかけて、映画化の許可を取ったという逸話があるくらいだ。それだけ人を動かす力を持った作品だということだ。

泣ける小説はたくさん読んできたが、これを超えるものはもうないだろう。泣ける小説で徹夜するのも、これで最後だろう。私の読書人生の中で、ひとつの臨界点を示した作品である。 

残酷だが非常に優しい物語でもある。

なにか見えない手で、優しく心を直接撫でられるような、そんな感覚があった。これを琴線に触れると言うのだろうか。

ひとりでも多くの方に読んでもらいたい作品である。

 

終わりに

こんなに長い記事を最後までお付き合いいただき感謝である。

どれもこれも私が大好きすぎる作品ばかりなので、紹介したい情熱が高まりすぎている所もあったかもしれない。この思いに読んでくれた方が少しでも感化されることを願っている。 

 

私は今後も面白い作品を探し続ける。見つけるたびにこちらの記事は更新していくので、たまに見返しに来てくれるとさらにありがたい。

 

以上。本好きの皆さんに愛を。そして、素晴らしい作品を執筆してくださった偉大なる作家さんたちに最大の敬意を。

 

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漫画も当然、守備範囲

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