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最初から最後までずっと面白い。でもずっと苦しい。『検察側の罪人』雫井脩介

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雫井脩介の最高傑作ができました。

 

盛々&濃厚

どうも、読書ブロガーのひろたつです。リーガルものを読んだだけで、法律に詳しくなったような気になってるアホです、よろしく。

 

さあ、今回は久々に私の『最高に面白い小説リスト』に加えられる作品が現れたので紹介させてもらおう。小説界を愛するものとして、売上に貢献させてもらいまっせ。

 

手堅い仕事ぶりで定評のある実力派検事・最上毅。彼には忘れられない事件があった。学生の頃、下宿していた寮の大家の娘が、卒業して下宿を出た4年目の春に殺害されたのだ。犯人逮捕に至らず、法改正で時効が撤廃される前に時効が成立してしまった。事件当時司法試験に足踏みをしていた最上には何の力にもなれなかった悔いだけが残った。その寮の先輩だった新聞記者の水野は週刊誌に転身してまで、事件を執拗に追い犯人と思しき人物の調査をしていた。

その事件とは関係なく老夫婦が殺害されるという凶悪事件が最上の勤める管内で起きた。捜査線上にあがった不審人物のひとりに聞き覚えがあった。それは、大家の娘が殺された事件で重要参考人にあがっていた松倉という男だった……。 

 

あらすじが長え…。

それもそのはず。上下巻たっぷり1000ページ近くあり、しかも中身は超濃厚。ラーメン二郎のマシマシみたいな小説である。あんなジャンクな味じゃないけど。

 

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永遠のテーマ 

長編&濃厚作品だが、テーマは非常にシンプル。

 

ずばり、「正義とは?」

 

使い古されたテーマ?ありきたり?展開に想像がつく?

いやいや我らが雫井脩介をあまり舐めない方でいただきたい。 甘く見ると怪我するぜ。こんな気持ち悪い口調になるぐらいクソ面白いんだから

 

「正義」というテーマは実はこの世の中にある物語のほとんどに含まれている。

アンパンマンだって、GANTZだって、ワンピースだって、リアル鬼ごっこだってそうだ。ここまで来ると、むしろ正義をテーマに含んでいない作品を探す方が難しい。

しかしどの作品でも共通しているが、「正義」はあくまでも物語の中のスパイスだったり、アイテム的な使われ方をしている。

その点、『検察側の罪人』はド正面から「正義」について語っている。語りまくっている。そして語り尽くせていない。つまり答えが出ていないのだ。

 

でもそこがこの作品魅力にもなっていることも事実。

 

でも私はこの「ド正面」からぶつかっている姿勢が好きだ。作家自身が難しいことに挑戦し、「書ききったるわ!」という気概を感じると堪らなく感動する。

「正義」という普遍のテーマに対し、「作家としての自分の答え(作品)はこれじゃい!」と胸を張っている。

 

最高の作品を作る、ということ

物語は敏腕検事の最上(もがみ)と新人検事沖野のふたりの視点から語られる。

 

最上は過去の事件によって苦しめられており、今回の事件で何とか憎き犯人をこの手で捕らえ、過去の精算をしたいと考えている。

その一方、重要参考人であり過去の事件の犯人と目されていた松倉の取り調べを行なっている沖野は疑問を感じていた。「本当にこいつが犯人なのか?」

 

犯人として何とか追い詰めたい最上と、最上に憧れながらもそのやり方に疑問を抱く沖野。

ふたりの物語と葛藤が超濃厚に描かれる。それはもう息苦しくなるほど。

 

私はネタバレをしない主義なのでこれ以上内容には触れないが、とにかくこの作品は「正義とは?」を最上に、沖野に、そして我々読者に突き続けてくる。それはもちろん作者自身も例外ではない。

 

雫井脩介は『検察側の罪人』を執筆しながら苦しんだことだろう。それが伝わってくるような内容だ。

設定にしても、展開にしても、そして結末にしても、雫井脩介がこの物語に用意したものすべてが、端的に言って「苦しい」のだ。

もっと軽くすることもできたと思う。救いを用意することもできたと思う。

しかしあえて雫井脩介はしなかった。なぜなら彼はこの作品を最高のものにしたかったからだ。自分の筆で表現できる最高の「正義を問う」作品を生み出したかったからだ。

私には十分その気概が伝わってきた。機会があったらハグしてあげたいぐらいだ。オッサン同士のハグは地獄絵図かもしれんが。

 

生みの苦しみが作品の質に直結するほど創作の世界は甘くない。

しかし、『検察側の罪人』は確実に雫井脩介の血反吐が作品の価値に貢献している。

 

ずっと面白い

冷酷ながらも熱い検事魂を持った最上と、熱い情熱と若さゆえの揺らぎを抱える沖野。

ふたりの物語は読者を興奮させ続ける。マジで1000ページぐらいの間、ずーっと面白い。

雫井脩介のこれまでの代表作といえば『犯人に告ぐ』だが、これは非常にスケールが大きく、言い方は拙いかもしれないが「ドンパチ」的な面白さで読者を惹きつけた作品だった。決め台詞で萌えさせたりとかね。

いや、『犯人に告ぐ』も当然素晴らしい作品だと思うし、間違いなくクソ面白い。べつに比べてこき下ろしたいわけではないので、誤解のないよう。

 

それにしても巻島管理官のあの決め台詞は最高だったなぁ…。

 

でも『検察側の罪人』にはそういった装飾がない。派手な戦いもなければ展開もない。

じっくりと、でも深く深く私たちの心に楔を打ち込むように、物語を粛々と進めていく。

 

これも『検察側の罪人』の素晴らしい所である。

着飾ることよりも、裸で勝負しているような感じだ。きらびやかな飾りではなく、鍛え上げた肉体を見せつけるような…?それだと変態感が出てきちゃうか。

とにかく、非常に誤魔化しのない作品だ。テーマだけでなく、創作というものに対してもだし、読者に対しても真摯に向き合っている。

 

解説に書いてあったのだが、作者の雫井脩介はかなりプロットの時間をかけるタイプなのだそうだ。つまりそれだけ物語を徹底的に構築したい人なのだろう。

そりゃあ面白い話ができるはずだ。奥浩哉に読ませてやりたい。

 

あ、間違って『アイアムアヒーロー』のリンクを貼っちゃったよ。まあたいして変わんないからいいか。

 

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でも、ずっと苦しい 

今までたくさんの小説を読んできて、マンガを読んできて、映画を観てきて、数多くの物語という物語に触れてきて分かっていることがある。

 

それは「苦しむ人がいれば、物語は面白くなる」ということだ。

 

人は物語に色んなものを求めるが、基本的にそれらは“苦しみ”というものを経由したり、活用しないと得られなかったりする。ジャンプをするときに屈まないといけないようなもので、物語において“苦しみ”は必須要素である。

 

上の方でも書いたように、この作品では登場人物のほとんどが苦しみに苛まれている。

そして読者も「正義」という強大な難題を目の前に突きつけられ、非常に苦しむ。

それは『検察側の罪人』を読み終わるまでずっと続く。

 

もしかしたら人によってはその苦しみに耐えきれず、「駄作」の烙印を押すかもしれない。それはそれで理解できる。こんなにも割り切れない作品なのだから、そういった反応もあって然るべきだ。

 

『検察側の罪人』はあくまでもフィクションだ。雫井脩介がどれだけ血反吐を撒き散らして書き上げたとして、それは創作物の域を出ない。

 

しかし、この作品は確実に読んだ者の心に“何か”を刻みつける。

刻みつけられたその“何か”は、生きた人間の中で存在し続け、もうすでに創作物のそれを超えている。

 

あなたの中に刻みつけられるもの。

その正体をぜひ確かめてほしい。

 

以上。

 

 

ああ、そういえば。

Kindleで読む方は上下巻で買うと割高になるので、こちらの『合本』をオススメする。

表紙がダサすぎてツラいが、まあ気にしないでもらいたい。中身の質には影響ないので。

↓ 

合本 検察側の罪人【文春e-Books】 

 

ああ、更にそういえば、映画化するんですってね。キムタクがどれだけ最上という魅力的なキャラクターを軽薄にするのか楽しみにしています。って、今まで既読小説の実写化は観たことないけど。 

でも確かに映像化はしやすいかもね。派手なストーリーじゃないからお金もかからないし。主演級をふたり起用できたのも、その辺りの影響があるのかも。

原作ファンの私として、映画の出来がどうこうよりも、この素晴らしい作品がちゃんと売れてくれればそれでいい。

 

ではでは。