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俺だってヒーローになりてえよ

圧倒的な読書量と端から忘却していく貧相な記憶力、ふざけた文章を駆使するポンコツブロガー。 同情されているのか、やたらとオススメ本や漫画が売れている。月間250冊以上。 バカなことを書いて怒られること多し。

【ショートショート】チョキの冒険

ネタ・やけくそ


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ある所にチョキがいました。

幼い頃からチョキは自慢のハサミでパーをバッサバッサとなぎ倒していました。

 

「俺はなんて強いんだ」

 

チョキはいつもそう思っていました。

 

 

チョキは大学を卒業後、刃物加工の会社に就職しました。

 

「生粋のチョキである俺にこの会社はぴったりだ」

 

そう思っていました。

 

 

しかし周りを見渡すと同期の人間もギラギラとした二本指を振りかざし、「俺が本当のチョキだ!」と主張していました。今までとはまったく違う世界にチョキは驚きました。

 

仕事はとても辛いものでした。

チョキであることを誇りに思い、自分の強み活かそうと入社した会社でしたが、周りは同じような人間ばかり。上を見れば「チョキ歴50年」なんていうバケモノもいるのです。

チョキは自分に自信がなくなりました。

自信がなくなると今度は自分の生き方を疑い始めるようになりました。

 

ある日、ネットでとある記事を見かけました。

 

”丸く生きよう。誰かを傷つけて生きるなんておかしい”

その記事を書いているのはグーという若者でした。

プロフィールを見ると、自分と年齢はそう変わらないのに、自分とはまったく違う生き方をしているようです。

グーはせっかく入った有名大学を二年で自主退学し、俳優を目指したり、ベンチャー企業に就職したり、自分で起業したりしていました。自分とは比べ物にならない経験値の多さです。

しかしグーは自分のことを誇るわけでもなく、ただただ「自分のやりたいこと」をやっているだけのようです。

 

チョキは決意します。

「俺もグーみたいになるんだ」

 

チョキはグーになることにしました。

 

---

 

それから月日の経ったある日、グーになったチョキはフリーランスとして生計を立てていました。

 

「会社に雇われてるなんて奴隷みたいなやつらだな」

 

グーになったチョキは、自分以外のチョキをバカにしていました。

 

フリーランスになり生計を立ててはいるものの、仕事は不安定です。何が起きるのか分からない不安は常に胸の中にありましたが、昔の同僚たちをバカにすることで何とか自分を保っていたのでした。

「なんとかしてお金を稼がなきゃ」

そんな意識がグーになったチョキの頭を占めていました。

 

 

仕事の移動中、ある光景を見かけます。

駅前でゲリラライブが行なわれているようでした。

突然のことに駅前は観客で溢れかえりました。

 

「誰が出るんだろう」

 

普段、音楽に興味の無かったグーになったチョキでしたが、仕事から意識を遠ざけたかったのか、ふらふらとステージに近づいていきます。

 

「みんなー、ありがとー!」

 

ステージに現れたのはパーでした。

幼い頃に自分がなぎ倒してきたパーです。

 

パーはキラキラした笑顔で手の平をいっぱいに広げて観客に答えています。

 

グーになったチョキは拳を握りしめました。

パーはとても幸せそうでした。自分のやりたいことをやれている人間特有のエネルギーに満ちた顔でした。

 

ステージの上でキラキラと輝くパーを、グーになったチョキは呆然と見続けました。

その内にある記憶が蘇ってきました。

それは幼い頃、テレビで観たアーティストの記憶でした。

そのアーティストもパーでした。幼い頃のチョキはパーに憧れましたが、チョキの両親に「自分が向いていることをやりなさい」と厳しく言われる内に、自然とパーになることを諦めるようになりました。

 

「俺はパーになりたかったんだ」

グーになったチョキはそう思い出しました。

 

---

 

チョキはパーになることにしました。

 

パーとしての日々は非常に厳しいものでした。パーとして生きるのには才能が必要でした。パーとしての才能がないチョキは誰からも必要とされませんでした。

 

貯金を切り崩す日々。結果の出ない毎日。

 

パーになったチョキは次第に音楽活動よりもパチンコに行くことの方が多くなっていきました。

 

「俺は何をやっているんだろうか…」

 

そんな疑問が不意に口から漏れ出ます。

今日も散々負けて、最悪の気分で店を出ました。

 

「おっチョキじゃねーか」

 

いきなり声を掛けられて顔を上げると、そこには刃物加工会社時代の同僚がいました。

 

「お前変わったなー」

 

そう言われたチョキは「まあね…。ちょっと音楽活動してて」と苦笑いしながら答えました。

昔の同僚の姿を見ると、ピシっとしたスーツを着ていて、いかにも「できるビジネスマン」といった感じでした。

それに比べて自分はヨロヨロの服を着ていて、見るからにみすぼらしいです。しかもここはパチンコ屋の間の前。パーになったチョキは自分が恥ずかしくなりました。

 

「そうなんだ、まあ頑張れよ」

 

懐疑的な視線を送りながら昔の同僚は肩を叩いてきました。思った以上に痛みを感じました。

パーはチョキに勝てないのです。

 

昔の同僚の自信に満ち溢れた後ろ姿を見送りました。

 

パーになったチョキは思わずにいられませんでした。

「あのまま会社に勤めていたら、どうなっていたんだろう。もっと違う生活が待っていたんじゃないだろうか…」

 

パーになったチョキは家に帰ることにしました。

 

その後姿は少しだけ欠けていました。

 

---

 

おしまい。