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バカは愛されずにはいられない。家入一真 『我が逃走』

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どうも、ひろたつです。

いたる所で絶賛されている家入一真氏の著書『我が逃走』を読了しましたので、レビューします。

◯凄腕?アホ?


私は家入さんのことは「都知事選に出てたアホそうな人」という程度しか知りませんでした。マック赤坂とかドクター中松と同じ属性の人だと思ってました。

ところが読み始めてびっくり。あの「ロリポップ!」の創業者だったんですね。以前、ワードプレスでブログを書いていたときはお世話になったもんですよ。使いにくくてやめちゃいましたけど。

この本の導入部は家入一真のサクセスストーリーになっています。ものすごい勢いで駆け上がっていく彼の姿はまさに敏腕社長そのものです。途中で挟まれるポーカーのエピソードもなかなかいい味を出しています。

ただアナログな私からすると、「人付き合いが苦手」という彼の性格と、「29歳で上場までこぎつけた若き実業家」というふたつの顔がいまいちリンクしませんでした。つまり何を思ったのかというと、「周りの人が優秀なだけだったんじゃないの?」ということです。


◯成功からの凋落


タイトルにあるとおり、この本は家入一真氏の大いなる逃亡劇になっています。それはもう見事な逃げっぷりです。
イメージとしては、危険を察知して走り去るようなものではなくて、「怖いから行きたくない…」という引きこもり的な逃げ方で、それはもうジメッとしています。

当時ジャスダック最年少上場を果たした彼ですが、あっという間に凋落します。これはもう成功者のテンプートですね。

キラキラしていたペパボ時代からのパーテイーカンパニーでの凋落は、その温度差にこっちまで身が切られるような思いをします。成功者となった彼もまた自分が起こした嵐に巻き込まれた被害者のように感じました。

◯でもなぜか見捨てられない


「家入は終わった」

そんな声が囁かれる中でも、なぜか彼のそばには甲斐甲斐しく支えてくれる人材がいます。特に秘書を務めていた内山さんは、「あんたもバカだよ…」と言いたくなるほどに、このダメ男を支え続けてくれました。
その姿は完全に、ヒモと貢ぐ女の図式でした。現に給料なしで働いてくれていたそうなので…。
この2人の関係性が私の中で一番不思議でした。

たしかに優秀かもしれないけど、こんなアホな人なのになんで見捨てられないんだろうか?

『我が逃走』は家入氏自身で書かれたものなので、彼の人柄や評価を第三者的に書き記してはいません。なので、彼が愛される理由を私なりに解釈するしかありません。

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◯力強い味方と震える手


本の終わりごろになると、家入氏が都知事選に立候補した辺りの話になるのですが、ここで出てきたエピソードが非常に強烈でした。ちょっと引用しますね。

 

(選挙)事務所には、いつしか「家入キャンプ」という名前がついていて、随時二十人ぐらいの若者が集まり、必要な作業を手分けして担当してくれるようになっていた。

 

(中略)

 

家入キャンプには、いろんな人が訪れてくれた。地方から「投票はできないけれど、応援したくて!」と上京してきてくれた人。僕が昔、福岡で新聞配達をしていた頃の配達仲間。「若い人が立候補するのを応援したくて」と訪れてくれたおばあちゃん。キャンプに来て、震える手で握手をしてくれた子もいた。

「どうしたの?大丈夫?」

尋ねると、その子はうつむいたまま小さな声でつぶやいた。

「ずっと、家から、出られなかったんです・・・・。でも、今日は、家入さんに、頑張ってって言いたくて、勇気を出して、来ました・・・・・・」

か細くて消え入りそうな言葉に、僕は胸が詰まった。

「そうなんだ・・・・・・。つらかったね。頑張ったね。ありがとうね」

僕はその手を、強く握り返した。彼らはギリギリの場所で生きている。社会からこぼれ落ちそうになりながら、必死に、「私たちはここにいます!」と、声にならない声を上げているように僕には感じた。

(本気でやらなくちゃダメだ・・・・・・!)

ホテルに帰ったあとも、あの震える手の感覚がまだ残っていた。

 

私はこのシーンの映像が頭の中に強烈にイメージされました。

家入氏の周りには、力のある人とそうでない人、両方が存在しています。これが彼の正体であるように感じました。
ギリギリに立つ人が勇気を出して支えたいと思う存在。優秀な人材が、そのダメさを包容しつつ支えたくなる存在。それが家入一真なのです。

例えるのが難しいのですが、「ジェットコースター」のような存在だと思います。

家入一真というジェットコースターに乗ると、地上にいるときとはまったく違った体験ができます。そして、ジェットコースターに乗るのに力のあるなしは関係ありません。誰にでも平等です。刺激的な体験がしたくて乗る人もいれば、自分の勇気を試したい人もいるでしょう。それぞれがそれぞれの理由で乗ることができるのです。

この垣根の無さが彼の魅力の正体なのでしょう。

…。

でも、人見知りなんだよな~。よく分からん。

◯結局の所、バカなんだと思う


私の結論は「バカ」。これでしょう。これしかありません。

いや、分かっていますよ。彼が優秀なのは。そうでなきゃ、あの成功はありえませんから。

でもね、本の端々で感じられる彼の弱さや、考えナシな感じは「バカ」と冠するに値します。
そして彼がバカだからこそ、周りの人たちは惹き付けられるわけで。

赤ちゃんもそうだし、ペットもそうですけど、自分よりもバカだからこそあんなにも愛らしく感じるんですよね。例えが悪いですか?そんなことないですよ。家入氏は赤ちゃんなんです。赤ちゃんだから誰もが寄ってくるんです。間違いない。

無防備で、何にも考えていなくて、でも何かにすぐ夢中になってしまって。
自分では何もできなくて、世話をしてあげないといけない。だけど誰よりも純粋で。


そんな家入一真氏が今後、どんな物語を作り上げてくれるのか。非常に楽しみです。私にも見たこともない景色をみせてください。