俺だってヒーローになりてえよ

何が足りないかって、あれだよあれ。何が足りないか分かる能力。

【小説紹介】島田荘司 『占星術殺人事件』 これを超えるトリックは無い。

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久々の小説紹介です。

◯鮮烈すぎて嫌われる

御大こと島田荘司推理小説好きにその名を知らないものはいないでしょう。
33歳でデビューを果たしてから、その特異な作風で読者を魅了しつつも、当時の文壇からは非常に嫌われていたそうです。
 
当時としては、島田荘司の鮮烈にすぎる才能が認められなかったのでしょう。いつの時代もそうですが、新しいものを作ると批判されやすいものなんです。だって批判するのは簡単だし、批判することで「自分は間違っていない」という自己弁護をできますからね。あー小さい、小さい。

そんな不遇の時を過ごしていた島田荘司ですが、少ないながらも認めてくれる人がいました。それが鮎川哲也、梶龍雄、森村誠一だそうです。梶龍雄と森村誠一は読んだことがないので分からないのですが、鮎川哲也に関しては日本きってのトリックメイカーです。間違いなく天才タイプです。トリックを生み出す天才が認める才能が島田荘司。これはハネないはずがありません。


推理小説を進化させてしまう

占星術殺人事件で強烈なデビューを果たした後も島田荘司の勢いは止まりません。
長い作家生活の中で、有名な賞(直木賞江戸川乱歩など)を勝ち取ることはありませんでしたが、後世への影響は計り知れないものがあります。

島田荘司の影響を受けたと公言している作家がざっと見てもこれだけいます。

綾辻行人我孫子武丸、司凍季、霧舎巧、麻生荘太郎、松田十刻、歌野晶午法月綸太郎伊坂幸太郎貫井徳郎、小島正樹などなど。

全員の作品を読んだことがあるわけではないのですが、知っている限りでの特徴を挙げるとするならば、それは

読者をいかに鮮やかに欺くか

ということに心血を注いでいる作家だらけです。

これは簡単なことではありません。才能も努力もないとできないという、変態にしか突き進めない道のりです。しかし、島田荘司作品を読んだ作家志望の若者たちの多くがこの変態道を志したのでした。

この流れが推理小説を大きく変えてしまいます。

島田荘司以前の推理小説は、横溝正史に代表されるようにホラーとの関係が非常に色濃いものでした。殺人というテーマを扱う上で、読者をその世界観に引っ張りこむためには「恐怖」という感情を使うことが便利だったのでしょう。

しかし島田荘司以降はこの流れが一気に変わります。まず肝にあるのは、「いかに欺くか?」であり、作品がホラーだろうが、青春モノだろうが、コメディだろうが、刑事モノだろうが関係なくなりました。これにより、作品の幅が広がるだけでなく、トリックの幅も広がっていくのでした。


◯その頭脳、悪魔的

さて、そんな島田荘司の作品の最大の魅力は、その悪魔的頭脳から生み出されれる常人の貧弱な脳みそでは何回生まれ変わっても出てこないであろうトリックにあります。

多くの推理小説作家は特別な一発を上げると、その才能を枯らしてしまいます。トリックというのはそういうものなんです。誰の元にもやってくるものではありません。

それがこの男の元には毎年のように新たなトリックが訪問してくるようです。

これはもう推理小説の神から愛されているとしか言いようがありません。

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◯キャラクター小説の生みの親

さて、その他にも島田荘司の大きな魅力として”キャラクター”があります。
俗に言う「キャラクター小説」というのは島田荘司から始まりました。

作品の内容だけでなく、出てくるキャラクターのファンになってもらうという手法です。これを可能にするにはキャラクターにかなりの愛着を持たせなければなりません。

島田荘司作品の一番の人気キャラといえば、名探偵御手洗潔です。他に類を見ないほどに変人であり、超天才の御手洗潔は多くの読者を魅了しました。私もイチコロでした。

一度、島田荘司作品の人気投票があったのですが、驚きの結果が出ました。そこに島田荘司の優秀なキャラクター小説クリエイターっぷりが垣間見えました。

というのは、数多くある彼の作品の中で一番になった作品というのが、何の事件も起こらずに、御手洗潔とその友人である石岡くんがただコーヒーを飲むだけという話だったんです。これは長らく御手洗潔作品を読んでいる人にしか分からない、極上の味わいがこの作品にあるからなのですが、いきなりこの話を読んだ人がいるならば「何じゃこのクソ作品は!」と本を壁に叩きつけることは間違いありません。

話の本筋でもなく、驚愕のトリックでもなく、スケールの大きさでもなく、ただキャラクターの感情の動きだけで人を魅了することに成功した稀有な例です。


◯著者最高のトリック!

そして今回紹介する「占星術殺人事件」ですが、デビュー作ということもあり、拙い部分は多数あります。特に最初の占星術に関する文章は読んでいて「もう止めようかな…」と思わずにいられないほどつまらないです。まあ読み飛ばしても構わないのですが…。

この作品が名探偵御手洗潔の初登場になるのですが、ここではその優秀な頭脳がまったく活かされておらず、かなりのでくの坊に成り下がっています。

が、

が、ですよ。

そんな問題点を多く抱えているこの作品ですが、肝となっているトリックは人類史上類を見ない最強の脳汁大爆発すること間違いなしの興奮で夜も眠れなくなるぐらいに快哉を叫ぶほどの…

とにかく凄いんです。

不可能としか思えない犯罪。絶対に犯人なんかいない。そう考えるしかない状況で明かされる真実に驚愕することでしょう。
この衝撃は他の小説ではぜっっっったいに味わえません。これを超えるトリックは今後推理小説の歴史がどれだけ積み重なっていっても現れません。断言します。それほどまでに異次元のトリックです。

私はこの衝撃の瞬間を会社の喫煙所で迎えたのですが、思わず「おっ」と声が出てしまい、周りから「どうしたの?」と心配されたのをよく覚えています。どうですか皆さん?小説を読んでいて思わず声が出た経験をしたことがありますか?

そんなめったに出来ない経験がここにありますよ。


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