どうも。小説をこよなく愛する男、ひろたつです。
今日は私が今まで1000冊以上読んできた小説の中でも、一番泣けた小説を紹介しよう。
内容紹介
知っているはずの言葉がとっさに出てこない。物忘れ、頭痛、不眠、目眩――告げられた病名は若年性アルツハイマー。どんなにメモでポケットを膨らませても確実に失われていく記憶。そして悲しくもほのかな光が見える感動の結末。上質のユーモア感覚を持つ著者が、シリアスなテーマに挑んだ最高傑作。
デビュー作の『オロロ畑でつかまえて』から作家としての持ち味をほぼ完成させていた荻原浩。「笑えて泣ける」をやらせたら、日本でも最高峰じゃないだろうか。
そんな荻原浩が、シリアスなストーリーに全力を傾けたのが本作『明日の記憶』である。
はっきり言って軽い物語ではない。真剣に向き合う姿勢を読者に強いる物語である。
でもだからこそ、読む人の心を強く打つ。忘れられない一冊になるのだ。
荻原浩の最高傑作
著者の荻原浩は非常にハズレの少ない作家である。
そのほとんどはユーモアに溢れたもので、特に中年男性の哀愁や笑いを扱わせたら東西随一だろう。おっさんを魅力的に描写できるおっさん作家。それが荻原浩である。
そんな彼の著書はオススメしたい作品で溢れているのだが、もし「一冊だけ」と限定されたら、私は間違いなく『明日の記憶』を選ぶ。それぐらいに飛び抜けた完成度、魅力を携えた作品である。
作家の著作を軽々しく順位付けすべきではないと思うが、現時点で荻原浩の最高傑作と言い切れるだろう。
映画化もしている
『明日の記憶』には面白い逸話がある。
ニューヨークで撮影を行なっていたとある俳優さんがいた。
日本とは遠く離れた異国の地での撮影。ストレスは付き物である。少しでもメンタルを和らげようと、ニューヨークの書店に足を運んだ彼。そこでたまたま手に取ったのが『明日の記憶』だったそうだ。
知らない作家の知らない作品。予備知識はゼロで何気なく読み進めてみると、あまりの素晴らしい内容に驚愕。
読み終わっても興奮は冷めやらず、黙っていられなくなってしまい、ニューヨークから伝手を辿って著者の荻原浩に直接連絡を取ったそうだ。「映画化しませんか?自分に主演をやらせてください」と。
はい、その俳優さんとはこの方。
日本を代表する名優、渡辺謙である。
いい作品ってのは、人に影響を与えるもんだと痛感するエピソードである。触れてしまったら行動を起こさずにはいられなくなる。だから名作は人から人へと伝わっていくのだ。
ちなみにだが、こんなに素晴らしい逸話を紹介しておいて、私は『明日の記憶』の映画は観ていないし、一生観るつもりもない。
原作のイメージがあまりにも私の中で完成されているからで、そのイメージを損なわないためにも、このまま生涯を終えるつもりである。
睡眠時間を奪ってくる
『明日の記憶』では若年性アルツハイマーという、かなりハードなテーマを扱っている。重い話題はそれだけ読者のストレスにもなるので、冒頭にも書いた通り、軽く愉しめるようなエンタメ作品にはなりえない。
しかし、重く、読者に真剣さを求めるテーマだからこそ、感情が大きく揺さぶられるのである。読者が本気になればなるほど、それに応えてくれる。そんな作品である。
物語の中で、主人公はアルツハイマーによって大きく人生を翻弄されることになる。そこで彼の感情はときに大きく揺さぶられ、それこそ自分という存在を否定されるような感覚を味わう。『明日の記憶』を通じて底に流れるのは、痛みである。
主人公の痛みはリアルさを伴って読者に伝播する。主人公とともに傷つきながら読者は物語を読み進めることになる。
だからこそページを捲る手が止められない。心が動かされる。気がつけば時間が経ってしまっていることだろう。
作品全体には記憶をじわじわと失っていく男の恐怖や悲しみが漂っているが、そこは荻原浩、要所要所では笑いの要素を差し込むことも忘れていない。悲劇一辺倒では、それはそれで薄っぺらい一色だけの作品になってしまう。あらゆる色が混じってこそ、力を持ったドラマになりうる。この辺りのバランス感覚はさすがの一言である。
悲しみを知っているからこそ、温かみを感じられるようになる。喜びがあるからこそ、失う恐怖に震える。そんな大事なことが『明日の記憶』にはたくさん詰まっている。
序盤こそゆっくりと物語は進むが、中盤以降はきっと目が離せなくなることだろう。
私は翌日が仕事だというのに、あまりにも夢中になってしまい、泣きながら明け方まで読み続けてしまった。
山本周五郎賞を受賞したのも納得の最高小説である。
読者層を選ばない
こうやってネットで不特定多数の人に本をオススメしている私だが、リアルでも「面白い本知らない?」と聞かれることがある。そんなときに私は真っ先に『明日の記憶』をオススメするようにしている。ページ数はそれほどでもないのに、ガツンとした読書体験ができるので、人に勧めやすいのである。
今までにこの本を10人ぐらいに読んでもらったが、失敗したことはない。満足度100%である。もしかしたら相手がただ単に気を使ってくれただけの可能性もなくはないが、読み終えたあとに「他にもない?」とさらに聞いてくるので、間違いないだろう。
で、紹介して読んでもらったのは、会社の後輩から先輩、奥さんまでと非常に幅広いメンバーである。そして全員が声を揃えて「泣いた」と言ってくれた。
それだけ無差別に人を夢中にさせてしまう作品だということだ。うーん、強い。
ということで、私の長い読書歴の中でも屈指の名作である。ぜひご一読いただきたい。
以上。