俺だってヒーローになりてえよ

何が足りないかって、あれだよあれ。何が足りないか分かる能力。

作者がイカれていれば抜きん出た作品が作れる『死役所』

f:id:summer39191628:20170618222600j:plain

 

どうも。いたって普通の人ブロガーひろたつです。性癖も普通だと思いたい。

今回はイカれた作品の紹介

 

内容紹介

死役所 1 (BUNCH COMICS)

あずみきし 新潮社 2014-04-09
売り上げランキング : 33393
by ヨメレバ

お客様は仏様です。

此岸と彼岸の境界に存在する、死役所。
ここには、自殺、他殺、病死、事故死……
すべての死者が訪れる。
罪無き者は、天国へ。罪深き者は、地獄へ。
あるいは――。

“助けたこと、後悔してるんです。
…こんなことを考えてる、自分が嫌で…"

こちらの文章はAmazonの紹介ページより引用させていただいたのだが、これまた『死役所』の中身をまったく説明できてないので、補足させてもらう。

舞台はあの世。の前にある死人の行き先案内を行なう役所、通称“死役所”

ここでは事故死、他殺、自殺、病死、老衰などなど、いかなる理由だろうともすべての死人がこの死役所で受付を行なう。

現世になんの未練もない人ばかりではもちろんなく、自分が死んだことそのものに納得していない人間も多い。

そんな人たちの“死んだ姿のまんま”によるヒューマンドラマである

上に貼り付けた『死役所』の表紙を見てもらいたいのだが、女性の顔が半分欠けているのがお分かりだろうか。正直、絵が下手で私は初見時に意味が分からなかった。ただ単に斜めを向いているだけだと思っていた。本編で彼女が違う角度で描かれたときに脳みそが丸見えになっているのを見て、ようやく理解した。

 

スポンサーリンク
 


 

死を扱うコンテンツはほぼ鉄板

見ての通り『死役所』は人の死を扱った作品になっている。

そんな『死役所』だが、最初に書いておきたいのだが、死を扱うコンテンツというのはほぼほぼ鉄板である。というかコンテンツの中では最強の部類に入る。ただし、その死を特別なものとして扱った場合に限るが。

物語にはドーピングとも言えるアイテムがあり、これを使うと格段に物語が面白くなる。つまり「エロ」「暴力」「恋愛」、そして「死」である

作者が何か勘違いしてこれらを乱発すると、非常に陳腐なウンコみたいな作品になるが、使い所を押さえれば確実に物語を面白くさせる。

 

で、『死役所』は全編に渡ってありとあらゆる死を取り扱った作品である。

かと言って死を乱用するわけではなく、ひとつひとつのエピソードを丁寧に、そしてときにはミステリータッチで描き出している。

 

これが面白くならんわけがなかろう。

 

スポンサーリンク
 


 

二種類の面白さ

物語についてもう少し話をしよう。

よくマンガなんかを読んで「面白い!」という何の中身もないアホみたいな感想を持った経験は、誰にでもあると思う。もちろん私もしょっちゅうある。頭を空っぽにして楽しめる経験というのは、大人になるとなかなか限られた機会しかないので、ぜひとも大事にしてもらいたい。

というのは余談で、この「面白い」というものの正体に迫りたい

 

私がこれまでクソほどマンガと小説を読んできた経験から言うと、面白さには大きく分けて二種類ある。それは、

読者の期待に応える

読者の期待を裏切る

である。

 

前者は王道ストーリーに代表されるような、読者が痛快な気分を味わえるように、主人公などが成功したり、困難を乗り越えたりするものである。

これによって、読者は擬似的に主人公たちと同じ体験をし、普段の生活ではなかなか味わえない達成感や幸福感を経験する。読者の願いを叶える、とも言い換えられるだろう。

 

もう一方の「読者を裏切る」は、ミステリーや鬱展開などに見られるものである。

不思議なもので、人は自分の思った通りにならないことも楽しめるようにできている。この辺りの心理はまだちゃんと言語化できていないのだが、新たな可能性を見せつけられることで、好奇心的欲求が満たされるのかもしれない。

 

『死役所』は基本的にこちら側の面白さを持っている。読者を裏切ってくる。

しかし、その裏切り方がちょっとイカれているのだ

そして、それゆえに『死役所』は特別であり、こんなにも人を惹きつけてしまうのだろう。

 

読者は善人

『死役所』の面白さは「読者を裏切る」ことにある、と書いた。

こう書くとまるで「予想外の結末!」的なものを期待されるかもしれないが、それはちょっと違う。(ネタバレになるのであまり書きたくないが、そういうエピソードもあるにはある)

 

読者は基本的に善人として物語を読んでいる。

だから例えば、善人で何の害もなさそうな登場人物が、悪者に危害を加えられそうになると「止めてあげてほしい…!」と思う。中には喜ぶ人もいるだろうが、それはあくまでも一時的な背徳感を求めているだけだったり、ただの性癖であり、基本は無実の人が暴力にさらされてほしくないと思っている。

というか、世のエンタメ作品は、「客=善人」という見地で物語を構成している。

 

この構図があるからこそ、暴力が出てくれば読者はハラハラするし、「もう止めてあげて!」と物語に釘付けになる。

ここら辺のブレーキの掛け具合が物語の肝になるかもしれない。

 

『死役所』の、というか作者の異常性

で、『死役所』なのだが、作品というよりも作者のあずみきしの異常性が際立っている。別に貶したり批判しているわけではなく、作家として稀有な才能を有していると思っている。

 

彼は人よりも先程書いた「ここまでにしてほしい」という良識のラインがかなり甘い。人がブレーキを踏むところでもまだアクセルを踏めるタイプの人間なのだ

 

f:id:summer39191628:20170618232444j:plain

「呼んだ?」 

 

 

マンガの表紙になっている女性もそう。

うら若き女性が事故に遭って死に、あの世に行った。その事故の影響で頭の半分は潰れてなくなってしまった。とはいえ、女性である。しかもあの世なのであれば、ドラゴンボールよろしく元の綺麗な姿に戻してあげようと思うのが人情である。でもあずみきしはしない。そのまんま。脳みそ丸見え。ほんとヤムチャじゃなくて良かったよ。このマンガの主人公が。

 

 

 

いちマンガの表現とってもそんな感じなので、物語そのものもかなりドギツく仕上がっている。ブレーキゆるゆる。善良な一般市民である私だと、読むのがちょっとキツいエピソードも多く、見るに耐えないキャラクターなんかも多数登場する。

これもすべて作者であるあずみきしの異常性によるものである。

 

作品に感情移入しないという強み

あとがきのおまけマンガに書いてあったのだが、あずみきしは作品の登場人物にあまり感情移入しないそうだ。

『うしおととら』で知られる藤田和日郎なんかは、マンガに描いている顔どおりの顔をしながら描いているというから、まったくの逆である。

しかし、そのドライさが『死役所』という稀有な作品を生み出す原動力になっている

しつこいようだが、作者が異常であるからこそ、読者の期待を裏切るぐらい酷い表現をできていしまう。それに物語を「どういう方向に進めれば面白くなるか」という計算を理性でできるようになるだろう。これは強い。

 

しかし面白いのが、かと言って凄惨な話ばかりではない所である。

基本は読者の期待を裏切るような凄惨な話や描写ばかりなのだが、ときおりハートウォーミングなエピソードも放り込んでくるのだ。この辺りも計算なのだろうか。もしそうだとしたら恐ろしいし、私なんかは完全に振り回されている。そして振り回されれば振り回されるほど、作品世界に夢中になってしまうのだ。

 

あずみきし…、恐ろしい男である。

冷たい物語から暖かい物語までこんなにもホイホイ描けてしまうとは、一種のサイコパスなんじゃなかろうか。いちいち全てに感情移入してしまう私からすれば、怪物である。

 

ちょっとした課題

あんまり褒め過ぎても(褒めてないか?)嘘くさいので、あえて苦言も呈しておこう。

最初に書いた通り、この作品かなり絵は拙い。物語の質で読者を捉えてはいるものの、作画に関してはまだまだ改善の余地はありである。せっかくの残酷描写も、拙い絵では威力半減である。

 

あとは、作者がサイコパス(決めつけています。すいません…)なのでキャラクターの感情表現自体も希薄な所だろうか。こちらも課題としていいかもしれない。

 

ただまあ、基本的には今までにない作品であり、一読の価値があるだろう。

ぜひとも作者の異常者っぷりに振り回されてほしいと思う。

 

そしてこんな悪口みたいなことばかり書いて、あずみきしさんには本当に申し訳ないと思う。素直に謝ってるので殺しに来ないでね。←サイコパス扱い

 

以上。

 

死役所 1 (BUNCH COMICS)

あずみきし 新潮社 2014-04-09
売り上げランキング : 33393
by ヨメレバ

 

 


スポンサーリンク