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読書中毒が奥田英朗の絶対に読ませたい10作品を教える

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どうも。大好きな作家のオススメ作品を紹介しよう。

 

奥田英朗は極度の人間フェチ

奥田英朗の最大のセールスポイントは、読者をグイグイとストーリーテリングにあると私は思っていた。現にこれから紹介する作品のほとんどが、「先が早く読みたい!でも終わってほしくない!」と思うぐらい美味しい作品ばかりだ。

しかし、いつだか彼のインタビューを読んでびっくりした。

奥田英朗はあれだけ面白い話を作り出しているにも関わらず「物語にはあまり興味がない」らしいのだ。

じゃあ一体何に興味があるのかといえば、それは「人間」である。

奥田英朗いわく、「魅力的な人間が作り出せれば、あとは勝手に面白い話ができる」らしい。

私のような凡人には到底理解が及ばない世界ではあるが、いち読書中毒患者としては納得できる部分がある。分かりやすい例を挙げるならば、伊坂幸太郎や村上春樹だろう。彼らの作品は登場人物がいちいち魅力的で、それだけで物語を先に進める力が生まれている。

 

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でもそこまで魅力は感じない?

ただ、ちょっと思うのは私は極度の奥田英朗ファンではあるが、彼の作品を読んでいてそこまで「このキャラクター最高!」と感じたことがあまりないことだ。

別に全くいないわけではない。奥田英朗の出世作である『伊良部シリーズ』の主人公にして異常者。精神科医伊良部なんてのはその最たる例だし、『サウスバウンド』のお父さんもなかなか良い味を出している。

でもそんな強烈なキャラクターというのは、奥田英朗小説の中でも少数派である。珍しいのだ。

では奥田英朗の語る「魅力的な人間」とは何か?

それはつまるところ、「読者と血を通わせられるか」ではないだろうか。

伊坂小説や村上春樹小説に出てくるような突飛なキャラクターも魅力的だが、それとは真逆の「読者と近しい存在」は物語世界に我々読者を引っ張り込む力がある。まるで彼らと一緒に物語を体験しているかのように錯覚させる。

我々と同じように翻弄され、苦しみ、藻掻き、足掻く。そんなある種“普通の人”が出てくるからこそ、私たちは奥田英朗作品に夢中になってしまうんじゃないだろうか。

 

奥田英朗のオススメ作品を紹介!

前置きが長くなってしまった。記事の趣旨に戻ろう。

 

今回の記事では、ゴリゴリの奥田英朗ファンである私が「これは鉄板」という奥田作品を選抜させてもらった。

どれもこれも極上であり、このレベルに慣れてしまうと他の作品が面白く感じられなくなってしまう可能性があるのでご注意いただきたい。ぜひとも用法用量を守って欲しい。

 

では行ってみよう。

 

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罪の轍

 

昭和三十八年。北海道礼文島で暮らす漁師手伝いの青年、宇野寛治は、窃盗事件の捜査から逃れるために身ひとつで東京に向かう。東京に行きさえすれば、明るい未来が待っていると信じていたのだ。一方、警視庁捜査一課強行班係に所属する刑事・落合昌夫は、南千住で起きた強盗殺人事件の捜査中に、子供たちから「莫迦」と呼ばれていた北国訛りの青年の噂を聞きつける―。オリンピック開催に沸く世間に取り残された孤独な魂の彷徨を、緻密な心理描写と圧倒的なリアリティーで描く傑作ミステリ。

 

奥田英朗を深く深く愛する私の中で「3大傑作」のひとつが、こちらの『罪の轍』である。

ちょっと、とっつきにくいような硬いイメージのタイトルで、実際に中身も暗めで緊張感の続く作品である。だけど、それが超面白い…

物語的にはかなりのスロースターターなので、もしかしたら「なんも起こんねえな」とか思われるかもしれない。だが安心してほしい。それがこの重厚な物語の舞台説明であり、仕込み段階なのである。読者である我々が『罪の轍』という傑作を髄の髄まで味わえるようにと奥田英朗が仕組んだ結果だ。大人しく身体を預けよう。そうすれば最高に刺激的な読書体験が待っているから。

作品にぶん殴られるから覚悟して。

 

イン・ザ・プール

「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。 

 

やはり奥田英朗を紹介するならば伊良部シリーズは外せないだろう。私もここからハマっていった。

栄えある直木賞を受賞したのは、次巻の『空中ブランコ』ではあるが、『イン・ザ・プール』もまったく遜色ない出来である。ちなみにシリーズにはなっているが、基本的に短編集でありオムニバス形式なので、どちらから読もうが問題はない。

まずは伊良部の強烈なキャラに魅了されてみてほしい

不思議な中毒性があって、最初はただの気持ち悪いオッサンなのだが、次第に伊良部が次になにをするのか、なにを言い出すのか待っている自分に気付くはずだ。

 

ちなみに映画化もドラマ化も舞台化もされているのだが、伊良部の配役ではどれも納得いっていない。

そもそもがあんな妖怪じみた男なので、誰がやろうとも違和感はあったと思うが、それでもドラマ版の阿部寛だけは本当に意味がわからない。

 

空中ブランコ

傑作『イン・ザ・プール』から二年。伊良部ふたたび!
ジャンプがうまくいかないサーカス団の団員、先端恐怖症のヤクザ……。精神科医伊良部のもとには今日もおかしな患者たちが訪れる。 

 

ということで、直木賞受賞作もオススメしておく。

1作目の『イン・ザ・プール』と遜色ない出来だが、やはり奥田英朗自身が伊良部シリーズの書き方に慣れてきていることもあり、いくらか質がいいかもしれない。 伊良部シリーズとしての形を、この作品で完全に完成させた感がある。

ちなみに3作目の『町長選挙』は読まなくても大丈夫である。完成したあとは、落ちるだけである。悲しい。

 

家日和

家庭内の「明るい隙間」を描く傑作短編集 ネットオークションにはまる専業主婦、会社が倒産し主夫となった夫、ロハスに凝る妻に辟易する小説家の夫……など。あたたかい視点で描く新しい家族の肖像。第20回柴田錬三郎賞受賞作。 

 

奥田英朗の真骨頂というべきか、一般市民を描かせたら東西一の腕前を見せてくれる。

この作品に出てくるキャラクターこそ我々読者と同じ“普通の人”である。それゆえに作中に出てくる“あるある”に悶絶することだろう。おそらく「Amazonの高評価の数=あるあるに悶絶した数」と見ていいと思う。みんな悶絶しすぎ。

 

それにしても、人ってのは理解されたい生き物なんだなぁと改めて思った次第。あるあるが面白いってのは、つまりはそういうことでしょ?

 

最悪

その町には幸と不幸の見えない境界線がひかれている。事業拡大を目論んだ鉄工所主・川谷を襲うウラ目ウラ目の不幸の連続。町のチンピラの和也が乗りこんだのは、終わりのない落ちるばかりのジェットコースター。「損する側のままで終わりたくない!」追いつめられた男たちが出遭い、1本の導火線に火が点いた。 

 

最悪という名の最高の作品。

群像劇になっているが、これがもう…疾走感が素晴らしい!

この作品なんかはまさに奥田理論である「魅力的な人間を作り出せば、あとは勝手に面白い話ができる」の典型例だろう。人を見ているだけで夢中になれる。時間がどんどん過ぎていく。面白すぎっ!

 

『最悪』の名の通り、登場人物たちの最悪なシチュエーションが次々と描かれる。なので人によっては読んでてきっついかもしれない。

しかしながら、とても大事なことを思い出してほしい。他人の不幸は蜜の味なのだ。

フィクションであることを理由に、存分に不謹慎な蜜の味を堪能していただきたい。

 

東京物語

1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊…。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。 

 

80年代のエッセンスをこれでもかと詰め込んだ短編集。

私は久雄とは全然世代が違うのだが、この青臭い感じとか、若さに任せて駆け抜けようとしたら足元をすくわれたりとか、思い上がった所をへし折られたりとか…その他もろもろが、胸を打って仕方なかった。 これぞ青春という感じである。

誰にでも愚かな部分があり崇高な部分がある。そして、変わっていってしまう部分があり、いつまでも変わらない部分がある。相反するそれら全部をひっくるめて、私たちは不完全な人間として生きている。

不器用だったり振り回されたりしながら、それでも自分の中の大切なものにしがみつく。

そんなどうしようもなく未完成な私たちの心に染みる物語である。

 

邪魔

及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供2人と東京郊外の建売り住宅に住む。スーパーのパート歴1年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がる。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織りこんだ傑作。 

 

『最悪』の流れを組む群像劇。『最悪』が楽しめたならこちらも絶対に楽しめることだろう。

それにしてもこれだけの分厚い作品(上下巻で800ページ)を、一気に読ませてしまう奥田英朗の筆力にはほんとうに驚かされる。

短編でも味わい深い物語を作れるし、長編なら疾走感と中毒性でぐいぐい読ませてしまう。器用な作家である。

流れに乗って予想通りの着地を見せる『最悪』と違い、ちょっとした“意外な展開”が用意されている点も面白い。

 

サウスバウンド

小学校6年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても変わってるという。父が会社員だったことはない。物心ついた頃からたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、よその家はそうではないことを知った。父は昔、過激派とかいうのだったらしく、今でも騒動ばかり起こして、僕たち家族を困らせるのだが…。―2006年本屋大賞第2位にランキングした大傑作長編小説。 

 

私が常々語っている「本屋大賞は信用できる」を地で行く作品。

ブレーキの掛け方を知らない父親に振り回される少年の物語で、これがまた最高に痛快である。ちょっとファンタジーな終わり方も独特の味わいがあって好きだ。

 

こちらの作品も奥田英朗の詐欺師っぷりが遺憾なく発揮されており、私はこの作品のせいでやたらと共産党びいきになってしまった。志位和夫の笑顔が可愛くて仕方ないのも『サウスバウンド』のせいだろうか。誰か教えて欲しい。

面白すぎて、幸福感が全身から目に見えるぐらい分泌されていたと思う。

できることなら、あの読書体験をもう一度したい。早く記憶を消す機械できないかな。

 

オリンピックの身代金

小生、東京オリンピックのカイサイをボウガイします――兄の死を契機に、社会の底辺というべき過酷な労働現場を知った東大生・島崎国男。彼にとって、五輪開催に沸く東京は、富と繁栄を独占する諸悪の根源でしかなかった。爆破テロをほのめかし、国家に挑んだ青年の行き着く先は? 吉川英治文学賞受賞作 

 

今のところ、私の知る限り奥田英朗の最高傑作はこちらの『オリンピックの身代金』である。ヤバい。これは死ねる。面白すぎて。むしろ殺される。面白すぎて。

 

作品に込められた熱量は半端ではなく、読みながら蒸し暑くなってくるほど。これほどのエネルギーに満ちた作品にはそうそうお目にかかれない。存分に熱にヤラれてほしい。

それだけのエネルギーがあるからこそ、私たち読者はページを捲る手が止められなくなってしまう。もう身体は奥田英朗に操られるがまま。読み始めて数分も立つ頃にはあなたは奥田英朗の傀儡と化すだろう。

 

あまりの面白さに、読み終わったあと、燃え尽きたような感覚に陥る。フルマラソンぐらいカロリーを消費するので、ご注意いただきたい。

 

でも基本的にどれも面白い 

なんて色々紹介してみたものの、実は奥田英朗作品はどれも面白いのであまり迷わずに手当たり次第に読んでもらいたい。ただし『町長選挙』と『無理』は別に読まなくても良いと思う。でも本当にそれくらいである。

Amazonの評価レビューを読んでみるとよく分かるが、みんな奥田英朗の器用さにやられているようである。

作品の幅の広さがあるから、作品によって全然違う面白さがあるし、キャラクターの内面描写やエピソードの作り方がいちいち説得力を持っているので、それだけハマりやすい作家なのだと思う。

 

きっとあなたも大好きな作家のひとりなることだろう。それくらい読み手を選ばない作家が奥田英朗なのだ。

 

以上。参考にされたし。