どうも。
森博嗣が贈る珠玉のエッセイをご紹介する。
内容紹介
つぶやきのクリーム The cream of the notes (講談社文庫) | ||||
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森博嗣がつぶやくと、クールなエッセィになる。
「カロリィゼロ」から「人生の勝ち負け」まで、ままならない世の中に対する森イズム。何から手をつけたら良いのかわからない状態とは、なんでも良いから手をつけた方が良い状態のことである――。
けっこう当たり前なことのなかに、人生の大きなテーマは潜んでいるものなのだ。
小説家・森博嗣がつい誰かに教えたくなって意外に真面目に綴った、世界の見え方が変わるつぶよりのつぶやき一〇〇個。
視点の鋭さがさすがの森博嗣である。思考の柔軟さとはまさにこれのことだろう。
本書はシリーズになっており、まったく同じ趣旨のエッセイが集英社からも出版されている。内容は森博嗣が日々思ったことを並べ立てているだけなので、順番を気にする必要はないし、どれを読んでもらっても得るものはほとんど同じである。
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見どころ
一応、このシリーズはほとんど読破しているのだが、非常に紹介するのが難しい作品だという印象を受ける。というのも、上に書いた通り内容に一貫性がなく、あえてまとめるなら「森博嗣が気付いたこと」になってしまう。なので作品の見どころや魅力を伝えようとしても、結局、森博嗣を褒めるだけ終わってしまう。
だがそれではあまりにも紹介記事として物足りないので、私なりに読み解いて見たところ、ひとつ他の作品にはない特徴を見つけることができた。
それはエッセイの中で奥様(あえて敬称)との喧嘩について触れられているのだ。
森博嗣ファンであれば、このエピソードの貴重さが分かってもらえると思う。
彼の文章から受ける印象は、「常に動じない」「なんでもお見通し」「柔軟な発想力」など色々あると思うが、特に「感情に左右されない」ように感じられる。
大体にして工学博士である。論理の男であるはずだ。
そんな鉄の脳を持った森博嗣が感情的になって、奥様と喧嘩とはこれは見ものである。詳しい内容は書かないので、ぜひ本書を読んで確認してもらいたい。
喧嘩つながりで
実はもうひとつ本書の中には森博嗣の喧嘩にまつわる話が載っている。
ちなみに相手は奥様ではない。装丁を担当している鈴木成一氏である。
鈴木成一氏と言えば、私の中で感動を呼ぶほどの装丁がある。
ナ・バ・テア | ||||
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森博嗣の300冊近い著作の中で「最高傑作」との呼び声が高い(というか森博嗣本人もそう語っている)スカイ・クロラシリーズである。このあまりにも美しい装丁に魅せられ、『ナ・バ・テア』以降、すべてハードカバーで揃えてしまった。(スカイ・クロラは私が知った時点ですでに書店から無くなっていた)
しかも鈴木成一氏はあのプロフェッショナルにも出演するような猛者。
第52回 鈴木成一(2007年5月22日放送)| これまでの放送 | NHK プロフェッショナル 仕事の流儀
また彼のホームページを見ると、日本で出版されている本のほとんどが彼の手によるものだと驚かされる。
鈴木成一デザイン室 | すてきな装丁や装画の本屋 Bird Graphics Book Store
そんな優秀な人を捕まえて、あの森博嗣が喧嘩をしてしまうのだから、興味が湧かないのだろうか?(ちなみに本書の中では「喧嘩寸前」という表現がなされていた)
※参考書籍
装丁を語る。 | ||||
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特に気に入った箇所
このように森博嗣の意外な一面を楽しむことができる本書であるが、やはり最大の魅力は森博嗣の頭脳から繰り出される「日常に潜む気付き」である。
なぜか分からないが、彼の発想から得られる気付きは、独特の快感をもたらす。世界がクリアになるような感覚を覚える。これが欲しくて著作を読み漁っていると言える。
で、今回の『つぶやきのクリーム』で特に私が気に入っているのは、森博嗣が「人に伝えるために気をつけている3つのポイント」である。こんな自己啓発書みたいなことを書くのは珍しいと思うが、あくまでも「私はこうしている」だけらしい。森博嗣らしい言い方である。
この3つのポイントの中に、「あえてちょっと感情的になる」というものがあった。
私も職場で腐るほどいる部下を相手している身なので、「相手にどうやって伝えるか?」は常には頭を悩ませている。まあ頭以外じゃ悩めないのだが。
これは子供相手でも一緒で、いくら理路整然に伝えても分からない相手の場合、感情というファクターを加えた方が、話がスムーズに行くことが多い。
ただし、これは「伝える」というよりも、「動かす」とか「調教」に近いかもしれない。
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抽象的な話多し
あえてそうしているそうなのだが、このエッセイでは非常に抽象的な物言いが多い。時事的な話もほとんどない。時事的な話をしたとしても、それに対しての話はほとんどしない。その辺の「芯の食わなさ」も森博嗣の魅力だとは思うのだが、人によっては回りくどいと感じるかもしれない。
しかし、抽象的だからこそ自分の身に置き換えることができたりと、汎用性が高くなるのだ。人生に通じる何かを見つけることができる。
なのでこのシリーズをそんなに買う必要はない、と当の森博嗣が言っていた。恐ろしい男である。
逆に私はこういった抽象的な話が大好きなので、いくらでも読みたくなってしまうのだが、どうやらこの100本のテーマを思いつくのに半年かかっているそうなので、新作はまた半年後までのお楽しみとなる。そもそも森博嗣がいつまで付き合ってくれるかという話はあるが。
もしあなたが何か人生のヒントになるようなものを求めているのであれば、本書は必ず応えてくれるだろう。森博嗣の叡智が手助けになるはずだ。
だが、あくまでも気付きを得るのは自分自身である。そこをお忘れなく、と森博嗣なら言うだろう。
以上。
つぶやきのクリーム The cream of the notes (講談社文庫) | ||||
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